Ⅷ-1
片頭痛は遺伝するか,また片頭痛に関与している遺伝子
にはどのようなものがあるか

 

推奨
片頭痛は家系内発症例が多く,連鎖解析や双子研究からも遺伝因子の存在はほぼ確実であり,複数の遺伝子が関与して発症することが推測されている.しかし,まだ確実なものは見つかっていない
推奨のグレード
B  

 

背景・目的

片頭痛の疾患感受性遺伝子の同定に向けて多くの研究がなされている.片頭痛のような多因子疾患における関連解析の確実性や方法論に関しては現在も議論があり,手探りの状態で進められているのが現状である.多因子性疾患の疾患感受性遺伝子が同定されると,それですべてが説明されると誤解されがちである.
それでも片頭痛に関しては近年,家族性片麻痺性片頭痛の原因遺伝子が 2 つ( CACNA1A, ATP1A2 )が判明した他,大家系における連鎖解析によりいくつかの連鎖領域が報告されつつある.また候補遺伝子アプローチによる関連解析も数多く行われている.

 

解説・エビデンス

患者対照関連解析によって患者集団内で正常対照集団内より頻度の高いアリル(対立遺伝子)を見つけることができる.このアリルが存在する遺伝子が疾患感受性遺伝子であり,その同定は疾患発症の機序や他の発症因子との関係を解明されることが期待される.そして将来的には特異的にターゲットを絞った治療も可能になる可能性がある.
ただし,この事実を個人レベルに還元する場面では注意を要する.ある人が片頭痛発症に関与するアリル(対立遺伝子)を持っていたとしても,その人が必ず発症するわけではなく,逆にそのアリルを持っていない人は発症しないというわけでもない.複数の環境因子と遺伝因子が重なって発症する場合や浸透率が低い場合など,様々なシチュエーションが考えうる.一つの疾患感受性遺伝子の同定は疾患機序解明の端緒にすぎないということを注意すべきである.
ただ,片頭痛には家系内発症例が多く,連鎖解析によりいくつかの連鎖領域 (MGR1 ~ 7) が報告されている.さらに分離解析( segregation analysis )の結果からは複数の遺伝子が関与して発症することが示唆されている.前兆のある片頭痛( MA )と前兆のない片頭痛( MO )は共に家族集積性が認められ,特に MA 発症には遺伝因子の関与が大きく, λs (患者の同胞の罹患率を一般集団内の罹患率で割った値.遺伝要因が強いほど値は高くなる)は MA で 3.35 , MO で 1.19 との試算がある.また一卵性双生児と二卵性双生児の疾患一致率( pairwise concordance rate )は MA ではそれぞれ 34% , 12% , MO ではそれぞれ 28% , 18% となっている.一卵性双生児のほうが二卵性より一致率が高いことは発症における遺伝因子が存在することの証拠となる.メンデル遺伝性疾患の原因遺伝子に対し,多因子疾患の発症に関与する遺伝子を疾患感受性遺伝子( susceptibility gene )という.
片頭痛発症における疾患感受性遺伝子の存在はほぼ確実であり,多くの関連解析による報告がなされている.候補遺伝子アプローチの報告が多く,セロトニン,ドパミン,アポトーシス,サイトカインなどに関連した遺伝子上に存在する多型で解析されている.しかし多くの研究では患者数,対照者数が少なく,疑陽性の可能性が高い.多くの研究では,ある有意な結果が報告されても,しばらくするとその反証が提示されるということの繰り返しになってしまっている.
ノンパラメトリック連鎖解析により連鎖領域を絞り込んだ後に十分なサンプル数を用いて一塩基多型解析を行い,インスリン受容体遺伝子( INSR, MIM 147670 )が片頭痛の疾患感受性遺伝子であるとの結論を導き出した論文もあるが,有意差があるとされた多型は遺伝子の機能や発現に影響を与えないことが判明しており,否定的な追試報告もある.
結局,現在までに十分なサンプル数により複数の民族で確認されたものや,メタ解析が行われたものはなく,片頭痛においてコンセンサスの得られた疾患感受性遺伝子は発見されていない.
ただし,サンプル数は少ないが,日本人,トルコ人,スペイン人,コーカシアン(オーストラリア人とニュージーランド人?)集団すべてで有意差が得られた MTHFR 遺伝子 C677T 多型は今後の展開が注目されている.
さらに連鎖解析によりいくつかの連鎖領域が報告されており(表 1 ),ここから今後新たな疾患感受性遺伝子または単一遺伝子性疾患の原因遺伝子が同定される可能性がある.
一部,単一遺伝子異常による疾患が症候として片頭痛を生じることがあり,通常の頭痛との関連が注目されている.片頭痛において遺伝因子の関与は明らかになりつつあるが,その同定は発症機序解明の礎となる可能性が高い.

 

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検索式・参考にした
二次資料

検索式: 最終検索日  04/11/27
migraine
& association : 657
& genetics : 111
& polymorphisms : 96
& {genetic factor} OR {genetic factors} : 154
& genetic influence : 20
& familial occurrence : 70
& inheritance : 56
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検索 DB: PubMed