Invitation
各科の頭痛専門医から取得体験談とメッセージ
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小児科
井澗 茎子
- 出身地
- 兵庫県
- 卒年度
- 1999年
- 勤務先
- 甲南医療センター(神戸市)/ひらせ小児科・アレルギー科(西宮市)
- 出身大学
- 神戸大学
- 趣味/没頭していること
- 音楽(聴くのも弾くのも)、ドライブ、旅行、お笑い、野球観戦
頭痛専門医取得を考慮したきっかけ、動機
小児科医の毎日、特に自分の育児経験がダイレクトに小児科医の仕事に生きてくる日々は充実しつつも忙しいもので、今思えば私は育児から復職した時期あたりから、仕事終わりや週末などに何度か辛い頭痛で寝込んだことがありました。
一方で、病院の外来では思春期の頭痛や起立性調節障害(OD)の診療に携わるようになり、その中で重度の片頭痛や難治の連日性頭痛のお子さんにも多く出会いました。困った時には系列病院だった甲南病院(現:甲南医療センター)の北村重和先生の頭痛外来へ患者さんの紹介をさせて頂いていました。私自身が甲南病院へ異動となったのを機に、幸運にも北村先生の外来で勉強させていただく機会を得ました。そこで改めて、小児の頭痛を成人科の頭痛専門医の先生方が数多く診療されている現状を知り驚かされました。北村先生から頭痛学会への入会と小児科医としての頭痛専門医取得を勧められた時には40代半ばになっていましたが、入会からほどなく参加した松山でのHMSJ、埼玉での第47回頭痛学会総会は私にとっての大きな転機となりました。診療科を越えた先生方と一緒に学ぶ充実感は一気に私の視野を拡げてくれましたし、時を同じくしてコロナ禍でこどもの頭痛も大きく様変わりしつつある時でした。抗CGRP関連製剤など頭痛診療のパラダイムシフトが起こってきた時期とも重なって、頭痛専門診療を小児科医が《小児科医として》担っていくことに大きな意味を感じるようになりました。
頭痛専門医取得に向けての取り組み
成人を含めた実際の頭痛専門外来を甲南脳神経内科の北村重和先生に、また小児の頭痛を共存症も含めて一元的かつ専門的に診療するリアルを兵庫医大小児科の下村英毅先生の外来で学ばせていただきました。また、頭痛学会が開催しているHeadache Master School Japan (HMSJ)では、系統的にかつ最新の頭痛医療が学べるだけでなく、患者さんとのコミュニケーションをテーマにしたConversations in Motion (CIM)なども経験できました。HMSJの修了テストが教育施設での研修歴と同等の単位として認められたことも大きかったです(専門医を取得した今でも知識のブラッシュアップのために折をみて参加しています)。
専門医試験問題集は試験勉強には必須で、特に解答解説が詳しく大変勉強になります。中にはPACNSとか脳アミロイド血管症とか、小児科医がまず絶対に出会わないであろう疾患も多く出題されており苦労もしましたが、知識を学び直す時間はなかなか楽しくもありました。
外来での経験症例や過去の試験で取り上げられた疾患を一つずつまとめたりしながら勉強をすすめ、何とか合格できました。
どのような頭痛専門医になりたいか
近年の学校保健室の調査で、頭痛は小学生の保健室利用の第2-3位、中高生では第1位になっているくらい多い症状です。また2024年のWHOの報告では、片頭痛のDALY (障害調整生存年数)は世界で第3位、特に5-19歳においては第1位になってきていて、子どもたちも頭痛で生活が脅かされていることが世界的にも認識されてきています。
頭痛で外来受診にやって来る子、特に病院へ紹介状を持ってくる子は頭痛のお子さんのほんの一部で、頭痛診療に苦手意識のある小児科医も正直まだまだ多いと思います。
ただ、疾患や診療分野名ではなく「頭痛」という症状を窓口にすることは、実は小児科診療にはかなり向いているように思います。「こどもの頭痛外来」は「頭が痛いことでも病院で診てもらえるんだよ」という子どもたちへのメッセージになり得ます。そもそも小児科はこどもの総合診療科ですので、小児科医ならそこから身体的な診断はもちろん、小児ならではの共存症や発達段階の問題にも一緒にアプローチすることができます。こどもや保護者に自然と向き合えるスキルや、学校や幼稚園との連携がしやすい立場であることも強みです。新しい片頭痛治療薬が増え、小児への適応拡大も少しずつ見えてきている時代ですが、小児科医は、こどもとの対話や共感、認知行動療法など非薬物的な対応も同じくらい大切にする職業柄でもあります。このように、頭痛診療に小児科医が取り組むことで小児科医の強みが活きる場面はたくさんあると感じています。
また頭痛専門医の勉強を通して、難渋する症例に出会った時には、頭痛学会の先生方と診療科を超えて相談し合えるという、貴重なネットワークにも恵まれることができました。
子どもの頭痛は、親や学校・園の先生など、周囲の大人に頭痛への理解や知識がなければ、受診行動にすらつながりません。タイミングよく介入できなければ頭痛の慢性化やスティグマ、登校困難など二次的なつらさも引き起こしてしまいます。頭痛外来を通して、こうしたこどもたちに早くから適切に医療的に、かつ心理的に介入をする重要性を、以前にも増して痛感しています。それと同時に、「頭痛専門外来」は頭痛に悩むこどもの最後の砦でなければならない、という使命感も今まで以上に感じながら診療に臨むようになりました。さらに、今後は病院にとどまらず、地域の小中学校・保健室の先生方との連携や、こどもたちへの啓発にも力を入れていけたらと考えています。