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くも膜下出血はどう診断するか

 

推奨
1) 典型的な症状は「今まで経験したことがない突然の激しい頭痛」である.項部硬直は発症早期には認められないことがあり注意が必要である
2) くも膜下出血患者には少量の出血による警告症状を呈することが少なくなく,突然の頭痛に悪心・嘔吐,意識消失,めまいを伴う場合には注意を要する
3) 脳血管攣縮による脳虚血症状や動脈瘤による圧迫で動眼神経麻痺を呈することもある
4)  CT ,腰椎穿刺, MRI の fluid-attenuated inversion recovery (FLAIR) が有用な検査である
推奨のグレード
A  
 

                                                                

背景・目的

脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血患者の予後は不良である.誤診や診断の遅れが予後の悪化につながるため,初期診察医におけるくも膜下出血の診断と鑑別能力向上が強く望まれる.

解説・エビデンス

2004 年に発表された新しい頭痛分類第2版 (International Classification of Headache Disorders 2nd Edition : ICHD- ㈼ ) によれば,脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血の診断基準は :
A. 突然発症の重度の頭痛で, C および D を満たす
B. 非外傷性くも膜下出血の画像診断( CT , MRI-T2 または FLAIR ),または髄液による証拠が存在する.その他の臨床徴候を伴うことも伴わないこともある.
C. 頭痛が出血と同時に出現する
D. 頭痛は1ヵ月以内に寛解する
である 1)
くも膜下出血の診断・治療ガイドラインが国内外で発表されている 2)3) .くも膜下出血の予後は不良で,総死亡率は 25 〜 53% と報告されている.このような重大な疾患であるのに誤診は少なくないのが現状である 4) .予後を悪化させる最も重要な因子は破裂脳動脈瘤の再出血である.再出血は誤診や診断の遅れが原因となることが多いため,的確な診断ならびに専門医による治療が必要である.くも膜下出血の大発作をきたす前に少量な出血(マイナーリーク)を 20% 前後の症例で認めることがある 5)6)7)8) .このような症例を正しく診断できた場合と誤診した場合では予後に大きな差が認められるため注意が必要である.マイナーリークの症状は突然の頭痛が最も多いが,悪心・嘔吐,意識消失,めまいが加わってくることもある 5)
くも膜下出血の初期診断を正確にする上で最も大切なのは問診である.くも膜下出血の頭痛の典型的な症状は「今まで経験したことがない突然の激しい頭痛」である.問診上,このような頭痛患者であれば,くも膜下出血を強く疑わなければならない.項部硬直はくも膜下出血発症早期には認められないため,注意を要する.また,脳血管攣縮による脳虚血症状や動脈瘤が直接動眼神経を圧迫して動眼神経麻痺をきたすことがある.
画像診断として, CT が有用であり,発症24時間以内の診断率は 92 %である 2) . CT で異常所見が認められない場合は,腰椎穿刺による髄液の観察や MRI の fluid-attenuated inversion recovery (FLAIR) 法が必要である.

 

参考文献のリスト

1) 国際頭痛学会・頭痛分類委員会 . 国際頭痛分類第 2 版 (ICHD-II).
  日本頭痛学会雑誌 2004;31:13-188.
2) Mayberg MR, Batjer HH, Dacey R, Diringer M, Haley EC, Heros RC, et al.
  Guidelines for the management of aneurysmal subarachnoid hemorrhage. A
  statement for healthcare professionals from a special writing group of the Stroke
  Council, American Heart Association. Stroke 1994;25(11):2315-2328.
3) 吉峰俊樹 , 他 . 科学的根拠に基づくくも膜下出血診療ガイドライン . 脳卒中の外
  科 2003; 31 (増刊号 (I)):1-60.
4) Mayer PL, Awad IA, Todor R, Harbaugh K, Varnavas G, Lansen TA, et al.
  Misdiagnosis of symptomatic cerebral aneurysm. Prevalence and correlation with
  outcome at four institutions. Stroke 1996;27(9):1558-1563.
5) Bassi P, Bandera R, Loiero M, Tognoni G, Mangoni A. Warning signs in
  subarachnoid hemorrhage: a cooperative study. Acta Neurol Scand
  1991;84(4):277-281.
6) Jakobsson KE, Saveland H, Hillman J, Edner G, Zygmunt S, Brandt L, et al.
  Warning leak and management outcome in aneurysmal subarachnoid hemorrhage.
  J Neurosurg 1996;85(6):995-999.
7) Leblanc R. The minor leak preceding subarachnoid hemorrhage. J Neurosurg
  1987;66(1):35-39.
8) Linn FH, Wijdicks EF, van der Graaf Y, Weerdesteyn-van Vliet FA, Bartelds
  AI,
van Gijn J. Prospective study of sentinel headache in aneurysmal
  subarachnoid haemorrhage. Lancet 1994;344(8922):590-593.

 

検索式・参考にした
二次資料
Subarachnoid hemorrhage
& Headache 784
検索 DB :  PubMed (04/11/20)