バルプロ酸による片頭痛治療ガイドライン(暫定版)

 

はじめに
  日本頭痛学会では、日本神経学会とともに厚生労働省に対してバルプロ酸ナトリウムの片頭痛への開発要望を行ってきたが、本件が2010年10月6日開催の「第5回医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」において医学薬学上公知に該当すると判断され、2010年10月29日開催の「薬事・食品衛生審議会 医薬品第一部会」において了承された。これにより2010年10月29日より片頭痛に対してデパケン®が保険適用可能となった。
 なお、今回の保険適用については、「公知申請への該当性に係る報告書」の内容について熟知し、個別の患者の状態に合わせた用法用量の調整等を行った上で適切かつ慎重にされるべきものであることが注意喚起されている。
 さらに、以下の点について周知徹底が指示されている。
(1)当該医薬品の使用上の注意等を熟知し、治療内容や発生しうる副作用等に関する患者への事前説明と同意の取得に努めるべきであること。
(2)重篤な副作用を知った場合には、遅滞なく関係企業又は厚生労働省に報告すべきものであること。当該適応外使用を行った場合、その症例の把握に努める。
 そのような経緯から、「バルプロ酸による片頭痛治療」が有効に、かつ安全に実施されることが重要と考え、早急にガイドライン(暫定版)を作成するように坂井理事長から診療向上委員会で検討するように指示された。同時期に新規の頭痛ガイドライン委員会(委員長:荒木信夫)が発足したのでガイドライン委員会と共同して本ガイドラインを作成することになった。

バルプロ酸による片頭痛治療ガイドライン(暫定版)委員会について
委員会の構成は委員長 山根清美 副委員長 荒木信夫、竹島多賀夫、委員:安藤直樹、五十嵐久佳、今村恵子、伊藤康夫、加藤裕司、桑原健太郎、島津智一、土井光、藤田光江、藤木直人、渡邊由佳である。

ガイドラインの作成手順と内容
日本頭痛学会編集による「慢性頭痛の診療ガイドライン」に準拠し、エビデンスに基づいたガイドラインとして作成した。エビデンスが不十分な場合には、expert opinionによることも可とした。 今回作成したガイドラインは暫定版であり、公開後、頭痛学会会員から寄せられる意見を改訂版に反映させることを基本的方針とし、新規の頭痛ガイドライン作成時に反映させる予定である。
ガイドラインのクリニカル・クエスチョン(CQ)は以下の通りである。
CQ1.バルプロ酸は片頭痛の予防に有効か
片頭痛の予防薬としてバルプロ酸は国際的なコンセンサスがあるか
CQ2.バルプロ酸はどのような片頭痛患者に投与するのか
CQ 3 片頭痛治療に用いるバルプロ酸の用量はどの程度か
バルプロ酸投与時の注意点は何か
CQ 4.片頭痛治療におけるバルプロ酸血中濃度測定にはどのような意義があるのか
CQ5.バルプロ酸は小児片頭痛の予防に有効でかつ安全か

 

おわりに
バルプロ酸による片頭痛発作予防治療についての有効性、安全性の検証が日本頭痛学会会員を中心に今後行われる必要がある。その検証作業を通じて、新たなエビデンスが見いだされることを期待するものである。

 

バルプロ酸による片頭痛治療ガイドライン(暫定版)執筆者を代表して                  

日本頭痛学会理事長 坂井文彦
ガイドライン委員会委員長 荒木信夫
バルプロ酸による片頭痛治療ガイドライン(暫定版)委員長 山根清美


 

【目 次】

CQ1.バルプロ酸は片頭痛の予防に有効か。片頭痛の予防薬としてバルプロ酸は国際的なコンセンサスがあるか。

CQ2.バルプロ酸はどのような片頭痛患者に投与するのか
CQ3.片頭痛治療に用いるバルプロ酸の用量はどの程度かバルプロ酸投与時の注意点は何か
CQ4.片頭痛治療におけるバルプロ酸血中濃度測定にはどのような意義があるのか
CQ5.バルプロ酸は小児片頭痛の予防に有効でかつ安全か
 

 

 

CQ.1 バルプロ酸は片頭痛の予防に有効か。片頭痛の予防薬としてバルプロ酸は国際的なコンセンサスがあるか。


推 奨

月に2回以上の頭痛発作がある片頭痛患者にバルプロ酸を経口投与すると,1カ月あたりの発作回数を減少させることが期待できる.
欧米のガイドラインでもバルプロ酸は片頭痛予防薬の第1選択薬のひとつとして推奨されている.

推奨グレードA



【Abstract-Form】

 

背景・目的
  バルプロ酸は脳内でグルタミン酸脱炭酸酵素の活性化とGABAアミノ基転移酵素阻害によりGABAレベルを増加させ,神経細胞の興奮性を抑制することから,片頭痛や難治性の慢性頭痛患者において検討がなされてきた.片頭痛には約20年の使用経験が蓄積されており,欧米では,β遮断薬,アミトリプチリンと並んで,片頭痛予防薬の第一選択薬のひとつとして記載されている.
   
解説・エビデンス
  バルプロ酸の片頭痛予防治療について前向き比較試験で評価した研究が,バルプロ酸ナトリウム2件 ,ジバルプロエックス(バルプロ酸とバルプロ酸塩の1:1配合剤)4件で行われている.コクランレビューでは,これら6件の結果を用いたシステマティクレビューを行い,バルプロ酸ナトリウム/ジバルプロエックスが頭痛発作回数を減少させ,発作頻度が50%以上減少する患者数を増加させることを示している(1).
また,Shaygannejadらは,バルプロ酸ナトリウム400mg/日を8週間内服することにより,頭痛発作頻度が月5.4回から4.0回に,頭痛強度がvisual analog scale (VAS) 7.7から5.8に,頭痛持続時間が21.3時間から12.3時間に減少したと報告しており(2),バルプロ酸が頭痛発作頻度を減少させるとともに頭痛強度を軽減させ,発作持続時間を短縮させるとの報告(2,3)がある.一方,発作頻度は減少させるが頭痛強度や発作持続時間は改善しないとの報告もある (4).
バルプロ酸と他剤との比較においては,バルプロ酸はそれぞれフルナリジン (5),プロプラノロール (6),トピラマート (2)とほぼ同等の有効性が示されている.
海外では,European Federation of Neurological Science (EFNS)の片頭痛治療ガイドラインでバルプロ酸500mgから1800mg/dayが片頭痛予防薬としてレベルAで推奨されている (7).また,American Academy of Neurologyの片頭痛ガイドラインでもバルプロ酸はグレードAで推奨されており (8),バルプロ酸は片頭痛予防薬として国際的なコンセンサスが得られている.
   
検索式
  Pub Med検索(2010年12月30日)
(migraine) and ((preventive) or (prophylactic) or (prophylaxis)) and ((valproate) or (valproic acid))
225件
   
参考文献のリスト
 
1) Mulleners WM, Chronicle EP. Anticonvulsants in migraine prophylaxis: a Cochrane review. Cephalalgia. 2008, 28:585-97.
2) Shaygannejad V, Janghorbani M, Ghorbani A, Ashtary F, Zakizade N, Nasr V. Comparison of the effect of topiramate and sodium valporate in migraine prevention: a randomized blinded crossover study. Headache. 2006, 46:642-8.
3) Hering R, Kuritzky A. Sodium valproate in the prophylactic treatment of migraine: a double-blind study versus placebo. Cephalalgia. 1992, 12:81-4.
4) Jensen R, Brinck T, Olesen J. Sodium valproate has a prophylactic effect in migraine without aura: a triple-blind, placebo-controlled crossover study. Neurology. 1994, 44:647-51.
5) Mitsikostas DD, Polychronidis I. Valproate versus flunarizine in migraine prophylaxis: a randomized, double-open, clinical trial. Funct Neurol. 1997, 12:267-76.
6) Kaniecki RG. A comparison of divalproex with propranolol and placebo for the prophylaxis of migraine without aura. Arch Neurol. 1997, 54:1141-5.
7) Evers S, Afra J, Frese A, Goadsby PJ, Linde M, May A, Sandor PS; European Federation of Neurological Societies. EFNS guideline on the drug treatment of migraine--revised report of an EFNS task force. Eur J Neurol. 2009, 16:968-81.
8) Silberstein SD. Practice parameter: evidence-based guidelines for migraine headache (an evidence-based review): report of the Quality Standards Subcommittee of the American Academy of Neurology. Neurology. 2000, 55:754-62.
   
【担当者】
 

今村恵子 / 竹島多賀夫

 

 


 

CQ.2 バルプロ酸はどのような片頭痛患者に投与するのか
 

推 奨

バルプロ酸は、月に2回以上の頭痛発作がある片頭痛患者の頭痛発作を減少させることが期待できる。また、急性期治療のみでは片頭痛発作による日常生活の支障がある場合、急性期治療薬が禁忌か無効あるいは乱用がある場合、永続的な神経障害をきたすおそれのある特殊な片頭痛にはバルプロ酸予防療法を行うよう勧められる。

推奨グレードA

背景・目的

バルプロ酸は片頭痛や難治性の慢性頭痛患者において検討がなされてきた。バルプロ酸はプラセボより有意に片頭痛を改善し,その臨床試験の結果は一貫して片頭痛の予防薬として有効であることを示している。 1)-5)
バルプロ酸の予防療法の目的は
㈰ 発作頻度、重症度と頭痛持続時間の軽減
㈪ 急性期治療の反応改善
㈫ 生活機能向上と、生活への支障の軽減にある。

解説・エビデンス
 

罹病期間が2年以上で,4回/月以上の片頭痛発作のある片頭痛患者を対象にした試験 1) で,発作がバルプロ酸治療投与期で,プラセボ期より有意に少なくなった。(p<0.001)バルプロ酸は難治性の片頭痛の治療に特に有効との報告や 6) 7) , 他の片頭痛予防薬であるプロプラノロール 3) ,フルナリジン 8) と比較しても,ほぼ同等の有効性が示されている.米国内科学会のガイドラインや米国頭痛コンソーシアムガイドライン9) およびAmerican Academy of Neurologyのガイドライン10)で、バルプロ酸は予防療法の第一選択の薬剤の一つに推奨されており、その適応は、

㈰ 生活に支障がある頭痛発作が月に2回(6日)以上、
㈪ 急性期治療が禁忌または無効で使用出来ない場合、
㈫ 週2回以上の頓服薬の使用、
㈬ 片麻痺性片頭痛などの稀な片頭痛の場合であり、

その際、急性期治療の副作用、患者の嗜好、急性期治療と予防治療のコストなども考慮して検討するよう推奨されている。
また、特に、共存症にてんかん、躁病や躁うつ病がある場合にはバルプロ酸が第一選択薬として推奨される。11) 12)

   
検索式
  Pub Med検索(2011年1月26日)
{migraine} 24041件
& {treat} 11630件
& {(preventive) or (prophylactic) or (prophylaxis)} 2888件
& {(valproate) or (valproic acid)} 210件
& {patient} 132件
   
参考文献のリスト
 
1) Hering R, Kuritzky A. Sodium valproate in the prophylactic treatment of migraine: a double- blind study versus placebo. Cephalalgia 1992; 12(2): 81-84.
2) Jensen R, Brinck T, Olesen J. Sodium valproate has a prophylactic effect in migraine without aura: A triple-blind, placebo-controlled crossover study. Neurology 1994; 44:647-651.
3) Kaniecki RG. A comparison of divalproex with propranolol and placebo for the prophylaxis of migraine without aura. Arch Neurol 1997; 54(9): 1141-1145.
4) Klapper J. Divalproex sodium in migraine prophylaxis: a dose-controlled study. Cephalalgia 1997; 17(2):103-108.
5) Mathew NT, Saper JR, Silberstein SD, Rankin L, Markley HG, Solomon S et al. Migraine prophylaxis with divalproex. Arch Neurol 1995; 52(3): 281-286.
6) Erdemoglu AK, Ozbakir S. Valproic acid in prophylaxis of refractory migraine. Acta Neurol Scand 2000; 102(6):354-358.
7) Ghose K, Niven B. Prophylactic sodium valproate therapy in patients with drug- resistant migraine. Methods Find Exp Clin Pharmacol 1998; 20(4): 353-359.
8) Mitsikostas DD, Polychronidis I. Valproate versus flunarizine in migraine prophylaxis: a randomized, double-open, clinical trial. Funct Neurol 1997; 12(5):267-276.
9) Snow V, Weiss K, Wall EM, Mottur-Pilson C: Pharmacologic management of acute attacks of migraine and prevention of migraine headache. Ann Intern Med 2002; 137(10): 840-849.
10) Silberstein SD. Practice parameter: evidence-based guidelines for migraine headache (an evidence-based review): report of the Quality Standards Subcommittee of the American Academy of Neurology. Neurology. 2000, 55: 754-62.
11) Silberstein SD.Preventive migraine treatment. Neurologic Clinics. 2009, 27(2): 429-43.
12) Finocchi C, Villani V, Casucci G. Therapeutic strategies in migraine patients with mood and anxiety disorders: clinical evidence. Neurological Sciences. 2010, 31 suppl 1: S95-8.
【担当者】
  島津智一 / 伊藤康男 / 加藤裕司 / 荒木信夫


 




CQ.3 片頭痛治療に用いるバルプロ酸の用量はどの程度か。バルプロ酸投与時の注意点は何か。
 

推 奨

片頭痛予防には成人の場合,バルプロ酸ナトリウム400〜600mg/日の内服が勧められる.

推奨グレードB

 

妊娠中,および妊娠中の可能性のある女性には原則禁忌とする.妊娠可能年齢の女性へ投与する場合,副作用・催奇形性について説明し,徐放錠を選択し他の抗てんかん薬を併用しない.妊娠の可能性を考え,月経期間,基礎体温のチェック,葉酸0.4mg/日の摂取を勧める.

推奨グレードA


背景・目的

 バルプロ酸には,日本で使用されているバルプロ酸ナトリウム と,諸外国で使用されているdivalproex sodium(バルプロ酸とバルプロ酸Naが1:1で配合された製剤,バルプロ酸の含有量としては,バルプロ酸ナトリウムとおおむね同量)などがある.
日本では, 2010年10月29日より片頭痛に対してデパケン®が保険適用可能となり,今後正式に承認される見通しであり(2011年1月31日現在),使用頻度が増すものと考えられる.片頭痛は性成熟期の女性に多いため,治療中に妊娠する可能性も含め,副作用や使用上の注意点を熟知し,慎重に投与されることが重要であり,日本における安全かつ有効な用量を提案する必要がある.

 

解説・エビデンス
 

海外で実施された片頭痛予防に対する効果は,二重盲検並行群間比較試験,二重盲検クロスオーバー比較試験で有効性が示されており,その際の用量は400〜2000mg/日であった1).日本での片頭痛予防の検討(オープン試験)では小穴ら2)により,800mg/日の報告があり,症例報告も含めると200〜1000mg/日の報告がある.米国では,片頭痛予防に500〜1000mg/日のdivalproex sodiumの使用が承認されている.欧州神経学会(European Federation of Neurological Societies; EFNS)のガイドラインでは500〜1800mg/日3)が推奨されている.
また,用量と予防効果の関係については,バルプロ酸の血中濃度が50μg/ml未満の群で,50μg/ml以上の群より副作用が少なく,頭痛発作頻度,発作日数の有意な減少があり,片頭痛予防では500〜600mg/日の低用量にした方がよいとする報告4)や,低用量のバルプロ酸に反応しない片頭痛患者では投与量を増量しても効果が得られない5)という報告があり,これらの点から,バルプロ酸ナトリウムの推奨用量を400〜600mg/日とした.
日本人を対象とした,躁病および躁うつ病の躁状態の患者に対するバルプロ酸の使用実態調査6)での主な副作用は,傾眠,高アンモニア血症,浮動性めまい,肝機能障害,クレアチンホスホキナーゼ増加,貧血などであった.バルプロ酸投与時のとくに重要な注意点は,妊娠可能年齢の女性への投与である. バルプロ酸と奇形の関連について,8つのコホート研究のまとめによると,バルプロ酸を服用していた1565例の妊娠中,118例で奇形がみられ,未使用群に比べ有意に高頻度であった7).またバルプロ酸は,1000〜1500mg/日を超えると催奇形率が高くなり8-11),用量・血中濃度依存的に催奇形率が増すと考えられる。さらに,抗てんかん薬(カルバマゼピン,ラモトリギン,フェニトイン,バルプロ酸)の単剤治療を受けていたてんかん患者の妊娠女性を対象とした前向き研究では,3歳児の認知機能検査で,胎児期にバルプロ酸1000mg/日以上を服用した群の児のIQは,他の抗てんかん薬に比して有意に低かった12).以上のことから,妊娠中のバルプロ酸服用は催奇形性と胎児の認知機能に影響を及ぼすと結論づけられた.片頭痛発作の予防はてんかんの治療とは異なり,絶対的必然性を有するものではないため,妊娠中および妊娠している可能性のある患者にはバルプロ酸は原則禁忌とする.妊娠可能年齢の女性に投与する場合は,副作用,催奇形性について事前に説明をおこない,血中濃度の上昇が緩やかな徐放錠を使用する。また、抗てんかん薬は多剤服用により催奇形性の頻度が高くなるため8,9),他の抗てんかん薬の併用を控える.患者には月経期間・基礎体温のチェックを勧め、妊娠の可能性が疑われる場合には,バルプロ酸の服薬を中止して主治医と連絡をとるよう指導する.神経管閉鎖障害の発症リスク低減のため葉酸0.4mg/日の摂取を促す13)ことも重要である.

   
検索式
 

【検索式・参考にした二次資料】
Pub Med 2011.1.23
valproate
and migraine 349
and pregnancy and malformation 502
and pregnancy and malformation and polytherapy 48
and folic acid 134

医学中央雑誌(2006-2011) 2011.1.23
バルプロ酸 と 片頭痛 68
   
参考文献のリスト
 
1) Vikelis M, Rapoport AM: Role of antiepileptic drugs as preventive agents for migraine. CNS Drugs 2010; 24(1): 21-33.
2) 小穴勝麿, 竹前紀樹:migraineに対するvalproic acidの有効性とその評価.日本頭痛学会誌2007;34(2): 179-184.
3) Evers S, Afra J, Frese A, Goadsby PJ, Linde M, May A, Sandor PS: EFNS guideline on the drug treatment of migraine--revised report of an EFNS task force. Eur.J.Neurol. 2009 ; 16(9): 968-981.
4) Kinze S, Clauss M, Reuter U, Wolf T, Dreier JP, Einhaupl KM Arnold G:Valproic acid is effective in migraine prophylaxis at low serum levels: a prospective open-label study. Headache 2001; 41(8): 774-778.
5) Ghose K, Niven B: Prophylactic sodium valproate therapy in patients with drug-resistant migraine. Methods Find Exp Clin Pharmacol.1998; 20(4): 353-359.
6) 手塚里美, 中目暢彦, 佐藤房子, 笹本高司, 三倉美保, 後藤哲也: 躁病および躁うつ病の躁状態の患者に対するsodium valproateの特別調査.臨床精神薬理 2008; 11(10): 1909-1920.
7) Jentink J, Loane MA, Dolk H, Barisic I, Garne E, Morris JK, de Jong-van den Berg LT: Valproic acid monotherapy in pregnancy and major congenital malformations. N Engl J Med. 2010 ; 362(23): 2185-2193.
8) Artama M, Auvinen A, Raudaskoski T, Isojarvi I, Isojarvi J: Antiepileptic drug use of women with epilepsy and congenital malformations in offspring. Neurology 2005; 64(11): 1874-1878.
9) Morrow J, Russell A, Guthrie E, Parsons L, Robertson I, Waddell R, Irwin B, McGivern RC Morrison PJ, Craing J:Malformation risks of antiepileptic drugs in pregnancy: a prospective study from the UK Epilepsy and Pregnancy Register. J Neurol Neurosurg Psychiatry 2006; 77(2): 193-198.
10) Kaneko S, Battino D, Andermann E, Wada K, Kan R, Takeda A, Nakane Y, Ogawa Y, Avanzini G, Fumarola C, Granata T, Molteni F, Pardi G, Minotti L, Canger R, Dansky L, Oguni M, Lopes-Cendas I, Sherwin A, Andermann F, Seni MH, Okada M, Teranishi T:Congenital malformations due to antiepileptic drugs. Epilepsy Res. 1999; 33(2-3): 145-158.
11) Vajda FJ, Hitchcock A, Graham J, Solinas C, O'Brien TJ, Lander CM, Eadie MJ: Foetal malformations and seizure control: 52 months data of the Australian Pregnancy Registry. Eur J Neurol. 2006 ; 13(6): 645-654.
12) Meador KJ, Baker GA, Browning N, Clayton-Smith J, Combs-Cantrell DT, Cohen M, Kalayjian LA, Kanner A, Liporace JD, Pennell PB, Privitera M, Loring DW; NEAD Study Group :Cognitive function at 3 years of age after fetal exposure to antiepileptic drugs. N Engl J Med. 2009; 360(16): 1597-1605.
13) Yerby MA: Management issues for women with epilepsy: neural tube defects and folic acid supplementation. Neurology 2003; 61(6 Suppl 2): S23-26.
【担当者】
  渡邉由佳 / 五十嵐久佳


 


 

CQ.4 片頭痛治療におけるバルプロ酸血中濃度測定にはどのような意義があるのか


推 奨

片頭痛の発作予防のためのバルプロ酸内服療法において、血中濃度は21-50 μg/mlが至適と考えられ,血中濃度を50μg/ml以上に上げても効果は乏しいため、予防投与中はバルプロ酸血中濃度を定期的に測定し至適血中濃度を維持するように投与量を調節することが勧められる.

推奨グレードB


背景・目的

  バルプロ酸は片頭痛の予防に有効であることが報告されているが,吸収における個体差が大きく,血中濃度上昇により意識障害などの重篤な副作用を起こす.また,主にてんかん治療に用いられ,その有効血中濃度は50-100μg/mlとされているが,病態の異なる片頭痛に同様の至適血中濃度があてはまるとは言い難い.したがって,副作用を軽減させるためにも,片頭痛における適切な有効血中濃度を設定することが期待される.

 

【Abstract-Form】
 
解説・エビデンス
  一般に,バルプロ酸は吸収における個人差が大きく,1日の血中濃度に幅があるため,ピークに達する時間を予測することが困難である.したがって,吸収に影響のないトラフ値を測定することが一般的である.血中濃度が120μg/mlを超えてくると,血液凝固障害,傾眠,振戦,鎮静,攻撃性,高アンモニア血症,高血糖などが出現する.血中濃度を上昇させる薬剤として,片頭痛の予防薬であるアミトリプチリンや頭痛発作時に使用するサリチル酸系薬剤があり,長期にバルプロ酸と併用する場合には注意が必要である1).高齢者では,血漿アルブミンの減少のため,遊離の薬物の血中濃度が高くなるおそれがある.
片頭痛では,バルプロ酸の血中濃度は50μg/ml以下に維持した方が副作用が出現しにくく,かつ頭痛発作頻度,発作日数の有意な軽減が得られたので,片頭痛予防では低目の血中濃度を目標としたほうがよいとされる2).また,低用量のバルプロ酸に反応しない片頭痛患者では投与量を増大しても効果は得られないと報告されている3).さらに,12歳から17歳の片頭痛患者を対象としたバルプロ酸:バルプロ酸ナトリウムの1:1配合剤であるDivalproex sodiumの投与を行ったopen-label extension trialでは,平均血中濃度(SD)は38.9 (37.3) μg/ml4),open-label multicenter studyでは,平均血中濃度(SD)は44.8 (35.5) μg/ml5)で有意な片頭痛発作の減少が認められている.したがって,これまでのエビデンスからは,血中濃度21-50μg/mlを目標としてバルプロ酸ナトリウム徐放剤の内服が勧められる.
ラットを用いた実験では,バルプロ酸ナトリウム経口摂取直後に安息香酸リザトリプタンやスマトリプタンコハク酸塩を経口摂取した場合,バルプロ酸の血漿中の濃度がコントロール群と比較して有意に低下する6,7).したがって,人においても,バルプロ酸とトリプタンの併用により,てんかんと片頭痛が共存する場合,トリプタンを使用した時にてんかん発作が起きやすくなる可能性が示唆される(片頭痛に関してはすでに発作が起こってトリプタンを使用しているので、一時的にバルプロ酸血中濃度が低下することはあまり問題にはならないと考える).
検索式
 

検索DB:PubMed (2010/12/26)
Migraine and Valproate 349

検索DB:医中誌Web(2010/12/26)
Migraine and Valproate 57

参考文献のリスト
1) デパケン,デパケン®,添付文書.
2) Kinze S, Clauss M, Reuter U, Wolf T, Dreier JP, Einhaupl KM, Arnold G. Valproic acid is effective in migraine prophylaxis at low serum levels: a prospective open-label study. Headache. 2001; 41(8): 774-778.
3)

Ghose K, Niven B. Prophylactic sodium valproate therapy in patients with drug-resistant migraine. Methods Find Exp Clin Pharmacol. 1998; 20(4): 353-359.

4) Apostol G, Pakalnis A, Laforet GA, Robieson WZ, Olson E, Abi-Saab WM, Saltarelli M. Safety and tolerability of divalproex sodium extended-release in the prophylaxis of migraine headaches: results of an open-label extension trial in adolescents. Headache. 2009; 49(1): 36-44.
5) Apostol G, Lewis DW, Laforet GA, Robieson WZ, Fugate JM, Abi-Saab WM, Saltarelli MD. Divalproex sodium extended-release for the prophylaxis of migraine headache in adolescents: results of a stand-alone, long-term open-label safety study. Headache. 2009; 49(1): 45-53.
6)

Hokama N, Hobara N, Kameya H, Ohshiro S, Hobara N, Sakanashi M. Investigation of low levels of plasma valproic acid concentration following simultaneous administration of sodium valproate and rizatriptan benzoate. J Pharm Pharmacol. 2007; 59(3): 383-386.

7) Hobara N, Watanabe A, Kameya H, Hokama N, Ohshiro S, Hobara N, Sakanashi M. Effect of sumatriptan succinate, sumatriptan and succinic acid and on pharmacokinetics of valproic acid following oral administration of sodium valproate in rats. J Pharmacol Ther 2006; 34(11): 1157-1162.
【担当者】
  土井光 / 藤木直人 / 山根清美


 






CQ.5 バルプロ酸は小児片頭痛の予防に有効でかつ安全か?
 
 
推 奨

 小児片頭痛におけるバルプロ酸の投与は、生活支障度が高く他の薬剤が無効の場合、 脳波上にてんかん波がある片頭痛(あるいはてんかん関連頭痛)に限定し、かつ慎重に行うことが勧められる。

推奨グレードB

 

背景・目的

 バルプロ酸は抗てんかん薬として小児にも使用されているが、肝機能障害や血球減少などの副作用が時にみられることから、使用開始前に血算やアンモニアを含む生化学検査を行い、開始後も定期的に採血を行うなどの慎重な対応がされている。また、妊娠女性における胎児の催奇形性のリスクがあるとの報告があり、思春期女子を含む小児の片頭痛予防薬として、バルプロ酸は第一選択にはならない。

解説・エビデンス
 

バルプロ酸内服療法は小児片頭痛の予防にプラセボと差がない(1)という報告やpropranololと同等という報告もあるが(2)、有効である報告も多い(3,4,5,6,7)。
小児片頭痛の予防薬としての第一選択薬は、シプロヘプタジン、アミトリプチン(8,9)、ロメリジンである(ただし、いずれの薬剤も妊娠中もしくは妊娠中の可能性のある女子に対しては避けるべきであるので妊娠の可能性については常に充分注意すべきである)。小児片頭痛にバルプロ酸が予防薬として使用される場合は次の㈵、㈼のいずれかの場合に限られる。

㈵ 生活支障度が高く、バルプロ酸以外の予防薬で効果がない場合
生活支障度が高いと考えられるのは
1) 回数は多くはないが毎回嘔吐を伴う、寝こんでしまうなどの強い頭痛
2) 回数が多い(月に10日以上鎮痛薬を必要とする)
㈼ 脳波上にてんかん波がある片頭痛(あるいはてんかん関連頭痛)

小児片頭痛にバルプロ酸を使用する場合には、内服開始前に血液検査(血算、生化学、アンモニアを含む)を行い、開始後2週間をめどに上記検査とバルプロ酸血中濃度を測定する。バルプロ酸による片頭痛発作の改善度を評価するために、頭痛ダイアリーの記載を勧め、次回外来通院を必ず約束し漫然と使用しない。思春期女子には妊娠中、妊娠した可能性が少しでもある場合には避けるべき薬であることを説明し、必要に応じて葉酸の併用内服を考慮する。
小児てんかんにおけるバルプロ酸の維持量は15-50mg/kg、1回の増量幅は5-10mg/kg、治療域の血中濃度は50-100μg/mlとされているが(10)、小児片頭痛においては、これよりも低用量で有効である可能性がある。


検索式
 

#1? Search migraine
#2 Search valproic
#3 Search valproic acid
#4 Search #2 OR #3
#5 Search #1 AND #2 
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参考文献のリスト
1) Apostol G, et al: Divalproex extended-release in adolescent migraine prophylaxis: results of a randomized, double-blind, placebo-controlled study. Headache 48:1012-1025, 2008
2)

Ashrafi MR, et al: Sodium Valproate versus Propranolol in paediatric migraine prophylaxis. Eur J Paediatr Neurol 9:333-338,2005

3)

Caruso JM, et al: The efficacy of divalproex sodium in prophylactic treatment of children with migraine. Headache 40:672-676, 2000

4) Serdaroglu G, et al: Sodium valproate prophylaxis in childhood migraine. Headache 42:819-822, 2002
5)

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6)

Apostol G, E, et al: Safety and tolerability of divalproex sodium extended-release in the prophylaxis of migraine headaches: results of an open-label extension trial in adolescents. Headache 49:36-44,2009

7) Apostol G, et al: Divalproex sodium extended-release for the prophylaxis of migraine headache in adolescents: results of a stand-alone, long-term open-label safety study. Headache 49(1):45-53. Epub 2008 Nov 14, 2009
8) Lewis DW, et al; Prophylactic treatment of pediatric migraine. Headache 44:230-237, 2004
9) Hershey AD, et al: Effectiveness of amitriptyline in the prophylactic management of childhood headaches. Headache 40:539-549, 2000
10) てんかん治療ガイドライン2010、監修:日本神経学会、編集:「てんかん治療ガイドライン」作成委員会、医学書院、発行 2010年10月
【担当者】
 

藤田光江 / 桑原健太郎 / 安藤直樹