慢性緊張型頭痛では時間的加重の侵害刺激による阻害が障害されている

Cathcart S, et al. Noxious inhibition of temporal summation is impaired in chronic tension-type headache. Headache
2010;50:403-412.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景】

時間的加重 (temporal summation: TS)とは、侵害刺激が繰り返されると疼痛が次第に増強される反応であり、ワインドアップ (wind up)現象を反映していると考えられている。ワインドアップ現象は、反復性の侵害刺激に対して幅広いダイナミックレンジを有する侵害受容ニューロンの反応が増加していく現象と定義され、中枢性感作の成立に重要な役割を果たす。線維筋痛症ではTSが増強していることが知られ、慢性緊張型頭痛 (CTTH)でも電気刺激で引き起こされる侵害刺激によっておこるTSが亢進傾向にあるという報告がある。一方、TSは体の他の部分に加えられた侵害刺激によって抑制を受けるという性質も有し、これは広範囲侵害抑制調節機構 (diffuse noxious inhibitory control: DNIC)の作用であることが知られている。本研究では、CTTHにおけるDNICによるTSの抑制について検討した。

【方法・結果】

ICHC-IIの診断基準を満たす46名のCTTH患者と25名の健常対照群を対象にした。さらにCTTH患者は、次の2グループに分類された。最初のグループ(CTH-S, n=23)では、精神的なストレスを加えるためのタスクを60分間負荷後にDNICによるTSの抑制を検討した。このタスクは、8~11文字の並び替えを行わせて単語を作成させるアナグラム (anagram)という言葉遊びと計算の二本立てで構成されていた。これに対し、もう1つのグループ (CTH-N, n=23)には60分間雑誌や新聞などを落ち着いた状態で読んでもらった。なお、この両群間で頭痛の程度・頭痛病期・性差に有意差は認めなかった。
健常対照群は全員に上記のタスクが課せられた。TSは、右手の第3指背面と同側の僧帽筋の筋腹中部で誘発した。1秒間隔で1秒間の圧刺激を連続10回加えた。そして、1, 5, 10回目の刺激で誘発された痛みの程度をVASで被検者に回答してもらった。DNICの誘発は、まず左側の上腕に巻いたカフを10 mmHg/秒の速さで被検者が痛みを感じるまで膨らませた。そしてカフが膨らんだ時点での痛みの程度をVASで記録し、次にVASが3になるまでカフ圧を調節維持して、上記のようにTS誘発を行った。
結果であるが、僧帽筋の筋腹で誘発した例では、いずれの群においても1回から10回へと圧刺激の回数が上がるにつれてVASは増加しており、TSが誘導されていることが確認された。健常対照群ではカフ圧を加えることで、TS誘発時のVASが減少しておりDNICが作用していると考えられた。一方、CTTH患者ではTS誘発によるVASは健常対照群に比較していずれの回数においても高く、しかもVAS増加の程度も強かった。また、カフ圧の痛覚に与える影響は、CTH-Sでは健常対照群に比較すると明らかでなかった。次に、上記タスクを負荷したが、VASの程度や変化に明らかな影響は認めなかった。第3指で誘発した場合でも同様の結果で、健常対照群ではTSはカフ圧負荷によって抑制を受けたが、CTH-SおよびCTH-Nにおいては、TSによる痛覚の誘発の程度や上昇率は健常対照群に比較して顕著であった。また、タスク負荷によるVASに対する明らかな影響は認めなかった。
また、CTTH患者群では、僧帽筋と第3指いずれの部位においてもTSの程度と頭痛頻度の間に正の相関が認められた。
さらに、TSの程度とうつや不安との間にも相関性か認められた。

【結論・解釈】

CTTH患者では中枢性感作が成立しており、DNICによる下行性侵害受容抑制が健常人に比較して作用していないことが示された。また、中枢性感作の成立とうつや不安などの気分障害との関連性が示唆された。