トリプタンは硬膜から求心線維を受ける三叉神経節ニューロンにおいてnNOS発現を上昇し、片頭痛トリガーに対する反応性を上昇させている

De Felice M., et al. Triptan-induced enhancement of neuronal nitric oxide synthase in trigeminal ganglion dural afferents underlies increased responsiveness to potential migraine triggers. Brain
2010;133:2475-2488.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景】

片頭痛や緊張型頭痛の患者がトリプタンなどの急性期治療薬を乱用すると重症化する現象は、薬物乱用頭痛としてよく知られている。その機序は明らかでなく、中枢性あるいは末梢性のいずれに異常を求めるかについては異論がある。本研究は、トリプタンの慢性投与によって三叉神経節ニューロンにニューロン型一酸化窒素合成酵素 (neuronal isoform of nitric oxide synthase: nNOS)の発現を検討したものである。

【方法・結果】

ラットに、スマトリプタン皮下注 (0.6 mg/kg/日)を6日間行ったところ、三叉神経節ニューロンにおけるnNOS陽性細胞の数が、対照群 (生理的食塩水投与群)に比較して約3倍に増加していた (315 + 16 %)。しかも、投与終了15日後においてもほぼ同数のnNOS陽性ニューロンが認められた。さらに、硬膜にFluorogoldと呼ばれるトレーサーを投与して硬膜からの求心性線維を受けている三叉神経節ニューロンのみを標識して、nNOS陽性細胞数を検討したところ、スマトリプタン投与終了時点で、対照群に比較して約5倍 (490 + 62 %)多いことが確認された。スマトリプタン6日間連日投与によって、顔面および後肢 (hindpaw)においてアロディニアが誘導されたが、nNOS阻害薬NXN-323を投与すると、触覚刺激による疼痛誘発の閾値が30分以内に上昇することが確認された。内皮型NOSや誘導型NOSの阻害薬を用いても、明らかな閾値上昇は認められなかった。これは、nNOSによって産生されたNOがアロディニア誘導に関与することを示す所見である。さらに、ストレス誘発性のアロディニアが、NXN-323によって阻害されるかについても検討が加えられている。この実験では、スマトリプタン6日間連日投与終了後2週間の時点で、明るい光に1時間曝露するストレスを負荷してアロディニアを誘発するモデルが使用されている。このようにして誘発されたアロディニアは、眼窩周囲および後肢において6時間以上持続して起こっていた。つまり、スマトリプタンの疼痛閾値に対する効果は投与を終了してからも、少なくとも2週間は持続することが示されたわけである。このモデルにおいてNXN-323を光刺激30分後に投与すると、アロディニアは消失した。また、スマトリプタンとNXN-323を同時に投与すると、スマトリプタン投与直後のアロディニアも投与終了後の光刺激誘発性のアロディニアのいずれの発生も阻害されていた。しかし、NOドナーであるsodium nitroprussideを投与して誘発されるアロディニアの程度は、スマトリプタン単独投与群とNXN-323同時投与群の両者間で差異は認めなかった。本グループは、スマトリプタン6日間連日投与によって、三叉神経節ニューロンにおけるカルシトニン遺伝子関連ペプチド (calcitonin gene-related peptide)発現が上昇することを報告している (Ann Neurol;2010:325-337)。スマトリプタン投与によるnNOSとCGRPの発現誘導は、主に同じ細胞で生じていた。また、NXN-323投与はCGRPの発現誘導には影響を与えなかった。

【結論・解釈】

本研究は、MOHの機序として三叉神経節ニューロンでの異常が原因であることを示唆した点で重要と考えられる。また、CGRPとNOは共に血管拡張物質であると同時に片頭痛誘発物質であり、片頭痛の病態における両者の関係は以前から興味が持たれていた。本研究の結果からは、CGRPの下流で発現が上昇したnNOSにより産生されたNOがアロディニアを誘発するといったストーリーが示唆される。今後は、CGRP拮抗薬がスマトリプタンによるnNOS発現誘導に与える影響を明らかにするなどの検討がなされるべきと思われる。