皮質拡延性抑制によって誘発される硬膜および軟膜血管の変化と抗CGRP抗体投与の影響

Schain AJ, et al. CSD-induced arterial dilatation and plasma protein extravasation are unaffected by fremanezumab: Implications for CGRP’s role in migraine with aura. J Neurosci 2019;39:6001–6011.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景・目的】

皮質拡延性抑制 (cortical spreading depression: CSD)は、大脳皮質でのニューロンとグリアの脱分極が同心円状に拡延し、その後しばらく電気活動が抑制される現象で、片頭痛前兆の原因と考えられている。CSDは硬膜および軟膜血管に収縮や拡張、さらには硬膜動脈の血漿タンパク質血管外漏出 (plasma protein extravasation: PPE)を引き起こすことが知られている。一方、抗CGRP抗体fremanezumab (FM)は片頭痛予防薬として既に欧米では上市されているが、その正確な作用機序は不明である。本研究では、生体二光子顕微鏡を用いてCSDによって引き起こされる硬膜および軟膜血管の変化を経時的に観察している。

【方法・結果】

雌のSprague–DawleyラットにFMあるいは生食を大腿静脈から投与し、2時間後に頭頂葉上の頭蓋骨を薄く削り、かつ前頭部に穿頭術を施行した。さらにその1時間後に、生体二光子顕微鏡を用いて頭部の観察を開始した。FMあるいは生食投与の4時間後の時点で、大腿静脈を介して蛍光色素であるFITCデキストランあるいはTexas Redデキストランを投与して血管を可視化し、その後ピンプリック法により前頭葉でCSDを1回発生させた。CSD発生によって、軟膜動脈は一過性の強い拡張に引き続いて、持続的な収縮を示した。一方、硬膜動脈には遅発性に持続的かつやや強い拡張が観察された。また、軟膜静脈にはCSD到達によって即時的で短時間の拡張と収縮が引き起こされ、その後持続的な (約1000秒間)拡張と収縮が認められた。一方、硬膜静脈には明らかな血管径変化は観察されなかった。軟膜および硬膜動脈の変化に対しては、FM前投与は明らかな影響を与えなかった。一方、FM前投与によって上述のCSD誘発性の持続的な軟膜静脈拡張は抑制され、持続的血管収縮のみが観察されるようになった。軟膜静脈径に関しては、CSD到達後500~1500秒後の時間帯において生食投与群とFM投与群の間に有意差が認められた。一方、硬膜静脈の血管径はCSDによって影響を受けなかった。また、CSDによって硬膜動脈からはPPEが誘発され、CSD到達後500~750秒後にPPE発生頻度は最高となったが、これに対してFM前投与は有意な影響を与えなかった。また、ラットにCGRPを大腿静脈から全身投与した際に硬膜動脈の拡張が確認されたが、これはFM前投与によって抑制された。なお、CGRP注入では硬膜動脈からのPPEは引き起こされなかった。また、Alexa Fluor 594で標識されたFMを投与したところ、硬膜への分布は確認されたが、軟膜への明らかな分布は認められなかった。

【結論・コメント】

本研究はCSDによる硬膜および軟膜の血管変化を約50分間にわたり経時的に観察しているが、これまでの片頭痛病態の概念を覆す所見が得られていることは注目に値する。まず、CSDによる軟膜静脈の拡張は本研究によって初めて報告され、かつFMで抑制されたことからCGRPが介する現象である。さらに、いわゆる三叉神経血管説ではCSDなどの刺激によって硬膜などに存在する三叉神経終末からCGRPが放出されることにより、血管拡張やPPEが誘発されると説明されてきた。しかし、本研究のデータでは硬膜動脈での拡張とPPEはFMで阻害されなかったためCGRPの関与については否定的と言える。また、CGRP自体の投与によっても硬膜動脈からのPPEは確認されなかった。CSDによる硬膜静脈の拡張の機序については不明であるが、翼口蓋神経節の副交感神経活性化の関与などが想定されている。