7名の片頭痛患者を30日間にわたり連日記録したfunctional MRIデータ

Schulte LH, et al. Longitudinal neuroimaging over 30 days: Temporal characteristics of migraine. Ann Neurol. doi: 10.1002/ana.25697.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景・目的】

片頭痛患者の予兆は片頭痛発作の上流にある事象であり、早い例では頭痛発作の72時間前から認められる。前兆では疲労感や食欲の変化など様々な症状が認められ、その発現には視床下部障害が重要な働きを果たすと考えられている。しかし確立したバイオマーカーが存在しないためにその出現時期を客観的にとらえることは困難である。本研究では、複数の患者を対象にfunctional MRI (fMRI)を連日施行することで予兆の出現時期の同定を試みた。

【方法・結果】

6名の前兆のない片頭痛と1名の前兆のある片頭痛患者を対象にした。3テスラMRIを用いてfMRIを施行した。被検者には、左の鼻腔に挿入したテフロンチューブを介してアンモニアガスを0.8秒間曝露することで三叉神経に侵害性刺激を加える方法と、回転するチェッカーボードを4秒間見せる方法で刺激を加えた。被検者が自覚した刺激強度はvisual analogue scale (0~100)で評価した。MRIの撮像は連日施行され、各被検者は最低30日間のスキャンが行われ合計27回の片頭痛発作が記録された。fMRIの結果から発作の2日前から視床下部の前外側部に刺激に対する異常活性化が認められたが、頭痛発作期と発作後の時期には活性化は消失していた。発作前48時間以内に認められた視床下部活性化の程度は発作前24時間とほとんど変化がなかった。また、今回観察された視床下部活性化部位と2016年に同グループが1名の片頭痛患者で確認した視床下部活性化部位のずれは6 mm3以内に収まっており、データの再現性が確認された (Brain 2016;139:1987–1993)。なお、頭痛発作前の72~48時間の時期においては発作間欠期と比較して有意な視床下部活性化は検出されなかった。さらに、頭痛発作の24時間前において、左視覚野の狭い領域に発作間欠期に比較して活性化部位が観察された。

【結論・コメント】

今回の研究によって、片頭痛予兆と関連する脳機能活性化は視床下部で起こり、その開始時期が頭痛発作48時間前であることが明確に示された。視床下部は自律神経機能の調節だけでなく、疼痛のモデュレーションにも関わる部位である。今後は、視床下部と三叉神経系との機能連関に関する研究が片頭痛メカニズムの解明に役立つことが予想される。