Visual snow syndrome患者に認められる脳の構造的および機能的変化

Schankin CJ, et al. Structural and functional footprint of visual snow syndrome. Brain 2020;143:1106–1113.

【背景】

降雪視症候群 (visual snow syndrome: VSS)は降雪時の風景やテレビ画面のホワイトノイズのようなものが全視野に認められるのに加えて、光過敏、視覚保続、増強する眼内現象、夜間視力障害などが合併する症候群である。片頭痛の視覚前兆とは別個の現象であるが、片頭痛に関連する病態として注目を集めておりICHD-3の付録に診断基準が掲載されている。耳鳴の合併もあり、眼科疾患ではなく神経疾患と考えられており、特に視覚連合野異常の関与が考えられているが、検討が少ないため不明な点が多い。本研究は、VSS患者の18F-2-fluoro-deoxy-D-glucose PET (FDG-PET)とMRI voxel-based mophometry (VBM)を施行し、脳の構造的および機能的変化を検討している。

【方法・結果】

3ヵ月以上にわたり、VSSの診断基準を満たす状態の20名の患者を対象とした (男性9名、女性11名、平均年齢31歳)。16名は片頭痛の既往があり、5名が典型的前兆を認め、1名は前兆のみで頭痛を認めない患者であった。耳鳴は10名で認められた。VEPと脳波も施行されたが、いずれも正常であった。対照者も20名であったが (男性9名、女性11名、平均年齢30歳)、その選別にあたっては2ヵ月に1回異常の頻度で片頭痛発作を認める症例と片頭痛前兆の既往のある者は除外された。FDG-PETは6時間以上の絶食後、370 MBqのFDGを投与後に45分間閉眼安静状態で撮像した。VBMは3T MRIの1 mmスライス画像を用いて構成した。FDG-PETではVSS患者において右舌状回 (lingual gyrus: Brodmann 19野)の代謝亢進が認められた。一方、右側頭回と左下頭頂小葉 (inferior parietal lobule)では代謝低下が認められた。VBMでは、VSS患者において舌状回と紡錘回接合部の灰白質体積の増加が確認された。右側頭回と左下頭頂小葉にはVBMにおいて形態変化は確認されなかった。PETでは明らかな異常は確認されなかったが、右中側頭回、右海馬傍回、右前帯状皮質にVBMで灰白質体積増加が見られた。また、左上側頭回では一部は灰白質体積増加が、一部で減少が認められた。

【結論】

今回の研究結果では、舌状回の代謝亢進が認められたため、VSSの病態における視覚連合野の役割を再確認する結果となった。さらに、舌状回の隣接した部位に灰白質体積の異常が確認されたこともこれを支持する。一方で、VBMでは視覚とは直接関連のない部位にも灰白質体積の異常が認められたことから、VSSの中枢神経異常は広範な部位に及ぶことも明らかとなった。特に、VSSの半数で認められる耳鳴の発現には、側頭葉機能異常が関与している可能性も考えられる。