アミロライド (amiloride)によるASIC1を介した抗片頭痛効果

Holland PR, et al. Acid-sensing ion channel 1: a novel therapeutic target for migraine with aura. Ann Neurol 2012;72:559-563.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景】

片頭痛は年間有病率12%であり、社会に与える経済的損失は莫大である。本来予防療法を受けるべき片頭痛患者の約1/3しか実際には予防療法を受けていないため、今後如何により有効な予防薬を開発して、患者のQOLの向上と共に片頭痛に関連した経済的損失を軽減していくかが重要な課題である。アミロライドはENaCs/degenerin遺伝子ファミリーの阻害作用を有する薬剤である。同ファミリーには、プロトンに反応して活性化される陽イオンチャネルacid-sensing ion channel (ASICs)が属することが知られている。ASIC1はACCN2遺伝子によってコードされる蛋白質で、機械刺激受容や神経保護に重要な役割を果たし、ASIC1阻害には多発性硬化症と虚血性脳傷害モデルで保護効果が確認されている。さらに、ASIC1には低酸素誘発性大脳皮質拡延性抑制 (cortical spreading depression: CSD)阻害作用も報告されている。本研究では、アミロライドの効果を片頭痛に関連した病態モデルで検討し、かつ同薬の前兆のある片頭痛患者 (MwA)に対する予防効果について報告している。

【方法・結果】

ラット大脳皮質への針刺激 (needle prick)によって誘発されたCSDに対してアミロライドの効果を検討したところ、CSD誘発15分前に前投与することでCSD発生が抑制された。一方、K+イオン誘発性のCSDに対してアミロライド前投与は無効であった。アミロライドのCSD阻害作用のメカニズムを調べるため次の2つの実験を行った。すなわち、針刺激誘発CSDがASIC1a阻害薬psalmotoxinによって阻害されたことと、マウスでACCN2発現をノックアウトするとアミロライドのCSD抑制効果が有意に減弱することから、アミロライドのCSD阻害効果はASIC1を介する作用であることが示された。さらに、アミロライドは、三叉神経終末から放出されたカルシトニン遺伝子関連ペプチド (calcitonin gene-related peptide: CGRP)による中硬膜動脈拡張・硬膜での中硬膜動脈近傍A線維刺激に反応する三叉神経頸髄複合体 (trigemino-cervical complex: TCC)ニューロン活動の両者も阻害した。アミロライドが利尿薬として既に臨床応用されていることと、上述の動物モデルでの効果を受けて、難治性のMwA患者7名に同薬 (10-20 mg/日)が試験的に投与された。その結果、4名で前兆頻度と発作時の頭痛強度の低下が認められた。

【結論】

片頭痛予防薬として抗てんかん薬や中枢性カルシウム拮抗薬などが現在用いられているが、有効率が必ずしも高くないことや副作用出現によって投与を中断せざるを得ないケースもあり、新規ターゲットを有する薬剤の誕生が待たれている。本研究は、ASIC1機能抑制による片頭痛予防治療の可能性に関する初めての報告と思われる。今後、アミロライドが前兆のない片頭痛にも薬効を示すのか、なぜK+イオン誘発性のCSDに対しては抑制効果を示さないのかなどといった疑問が解決されることで片頭痛研究がさらに発展していくものと思われる。