AMY1受容体の三叉神経系における発現―新しいCGRPの作用点

Walker CS, et al. A second trigeminal CGRP receptor: function and expression of the AMY1 receptor. Ann Clin Transl Neurol 2015;2:595-608.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景・目的】

片頭痛の病態においてカルシトニン遺伝子関連ペプチド (CGRP)は重要な役割を担っていることが知られている。片頭痛の新規治療として、小分子CGRP受容体拮抗薬やCGRPあるいはCGRPに対するモノクローナル抗体が開発中である。CGRP受容体はcalcitonin-like receptor (CLR)とRAMP1 (receptor activity-modifying protein 1)の複合体である。しかし、従来からCGRPの受容体は複数存在することが知られているものの、その局在や機能に関する詳細は明らかにされていない。しかし、CGRPを特異的にターゲットにした治療法が今後行われることから、全てのCGRPの作用点を明確にすることは極めて重要と考えられる。CGRP受容体はG蛋白質共役型受容体 (G protein-coupled receptor: GPCR)であり、主要な細胞内シグナルカスケードとしてはアデニレートシクラーゼ活性化による細胞内cAMP濃度上昇が知られている。本研究では、三叉神経系で発現するGPCRをスクリーニングし、カルシトニン受容体 (CTR)とRAMP1から構成されるAMY1受容体が三叉神経系で発現し、かつCGRPの受容体として機能していることを報告している。

【方法・結果】

ラットの三叉神経節からtotal RNAを抽出し、cDNAへ変換後に、Taqman GPCR ArrayによってGPCRの発現をスクリーニングした。その結果、サンプルによって異なるものの242~277種類のGPCRの発現が検出された。そのうち、97個はGi/oに、37個はGsに、85個はG1/11に、12個はG12/13といったようにG蛋白質と共役していることが明らかとなった。もっとも発現量の高いGPCRはGPR56であった。一方、CLRと共にCTRの発現も確認された。さらに、新生ラットから作成した培養三叉神経節ニューロンに両者が発現していることを免疫染色でも確認した。培養三叉神経節ニューロンにαCGRP (三叉神経系のCGRPはαCGRPでβCGRPは腸管神経叢に発現。以下CGRPと表記。)とAMY1受容体のアゴニストであるamylinを作用させると、ほぼ同等に細胞内cAMP上昇が認められた。したがって、CGRPとamylinは三叉神経節ニューロンに同等に作用していることが明らかとなった。次に、株化細胞であるCOS7とHEK293S細胞にCLR/RAMP1あるいはCTR/RAMP1を発現させた後に、CGRPあるいはamylinを作用させた。CLR/RAMP1発現細胞に関しては、CGRPはamylinに比較してほぼ250倍の力価をもってcAMP上昇を引き起こした。一方、CTR/RAMP1発現細胞に対しては、CGRPとamylinはほぼ同等にcAMP上昇を引き起こした。すなわち、CGRPはCGRP受容体のみならず、AMY1受容体にも作用することが明らかなった。さらに、CGRP受容体拮抗薬であるolcegepantとtelcagepantは、CGRP受容体とAMY1受容体の両者の機能を阻害するが、olcegepantは特にCGRP受容体に特異的に作用することが示された。次に、三叉神経節ニューロンにおけるCTRとRAMP1の発現が検討された。ヒト全身組織の遺伝子発現データベースであるGEOsetを検索したところ、CTRに対するmRNAはCLRに対するmRNAとほぼ同等に三叉神経節ニューロンで発現していることが判明し、ヒトの切片で免疫染色を行うと、CTRとRAMP1の両者を同時に発現しているニューロンの存在が実際に確認された、さらに、三叉神経脊髄路核では、両蛋白質を同時発現する神経線維と血管が観察された。

【結論・コメント】

本研究の結果は、内因性のCGRPが三叉神経系において古典的な (canonical)CGRP受容体だけでなくAMY1受容体に対しても作用している可能性を強く示しているため、今後はAMY1受容体を第二のCGRP受容体として認識すべきと思われる。これまで行われたolcegepantとtelcagepantの臨床試験で用いられた投与量において、両者がAMY1受容体にも作用していた可能性が指摘されている。現在、CGRP抗体およびCGRP受容体抗体が片頭痛治療薬としての開発中である。理論的には前者にはAMY1受容体を抑制する作用があるが、後者にはない。一方、AMY1受容体と疼痛疾患との関連性に関しては現時点でほとんどデータがないため、今後の研究の発展が期待される。