スタチンとビタミンD併用による片頭痛予防効果の検討

Buettner C et al. Simvastatin and vitamin D for migraine prevention: a randomized controlled trial. Ann Neurol 2015;78:970-981.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【目的・背景】

片頭痛患者の多くは発作頻度の高さから予防薬投与が必要となる。しかし、現在使用されている予防薬の使用によって、体重変化や認知機能への影響などの有害事象が生じうるのが問題である。前兆のある片頭痛は脳血管障害のリスクになることが知られているが、スタチンは血管内皮機能改善作用、抗炎症作用、血小板機能抑制作用などを介して血管障害発生を抑制的する。一方、スタチンの使用によってビタミンD欠乏が生じうることが知られていることから、スタチン使用に際してはビタミンDの併用が望ましいと思われる。さらに両者の併用によって抗炎症作用と血管内皮保護作用は増強され、かつスタチン使用によって生じる筋痛の発生も抑制されるといった利点がある。本研究では、スタチンとビタミンD併用による片頭痛予防作用がランダム化プラセボ対照平行群間比較による二重盲検試験で検討されている。

【方法・結果】

米国ボストンのBeth Israel Deaconess Medical Centerで2010~2013年にわたって行われ、月に4日以上片頭痛を認める3年以上の病歴のある反復性片頭痛患者が対象となった。慢性片頭痛の診断基準を満たす患者、スタチンの使用が必要になるような脂質異常を有する患者、冠動脈疾患を有する患者などは除外された。研究期間は36週であり、12週間はランダム化前のベースラインとなるデータを収集する期間で、その後に24週間にわたってランダム化比較試験が行われた。実薬群では、シンバスタチン20 mgとビタミンD1000国際単位 (international unit: IU)が1日2回投与された。一次評価項目は、1ヶ月に片頭痛を認める日数のベースラインからの変化とした。なお、薬剤投与期間の前半と後半の4週間ずつに分けて、ベースラインと比較された。 二次評価項目は、急性期抗片頭痛薬を使用した日数と投与量、片頭痛による生活支障度、片頭痛持続時間、片頭痛の強度、随伴症状のベースラインからの変化とした。電話による評価は229名で施行可能であったが、61%に相当する140名の患者は、条件を満たさないか、あるいは参加を希望しないことが理由で除外された。残りの89名の中で57名 (64%)において、ランダム化が行われ、実薬あるいはプラセボの投与が開始された。28名が実薬群に、29名がプラセボ群に割付けられた。その中で全員が薬剤投与の前半まで完了したが、後半まで完了できたものは52名 (91%)のみであった。一次評価項目に関しては、薬剤投与前半の期間において、実薬群で-8.0 (四分位数範囲 [IQR]: -15.0~-2.0)日/月であったのに比較してプラセボ群では+1.0 (IQR: -1.0~+6.0)日/月で有意に (p < 0.001)実薬群が優れていた。薬剤投与後半期間でも、実薬群-9.0 (IQR: -13~-5)日/月であったのに比較してプラセボ群では+3.0 (IQR: -1.0~+5.0)日/月であり、同様に有意差が認められた (p < 0.001)。片頭痛発作を認める日数が50%以上減少したレスポンダー比に関しても、ランダム化12週後の段階において、実薬群で25%、プラセボ群で3%と前者で高い傾向が確認された。二次評価項目では、急性期治療薬使用に関して投与日数と投与量が前者で有意に減少した (群間比較では投与日数に関してのみ後半でp < 0.001と有意差が確認された)。MIDASスコアは実薬群で改善する傾向が認められたが、随伴症状の改善に関しては両群間で有意差が確認されなかった。なお、片頭痛を認めた日数の減少に関しては、ベースラインにおける月間の片頭痛を認めた日数によらず (8日/月以上かあるいは未満かで分類)、実薬群とプラセボ群で群間有意差が確認された。研究実施期間中の、頭痛日記の記載率、投薬のアドヒアランス、BMI変化、食生活に両群間で有意差は認められなかった。実薬群では、LDLコレステロール低下と25(OH)ビタミンD上昇が確認された。有害事象に関しては、プラセボ群の1名に著明なCK上昇が認められたが、過剰な運動によるものと考えられた。

【結論】

シンバスタチンとビタミンD投与は、片頭痛を認める日数および急性期治療薬使用の日数と投与量を有意に減少させた。本研究では、従来から用いられていた片頭痛予防薬の使用を制限しなかったが、実薬群で有意差はなかったものの片頭痛予防薬の使用率が高い傾向があった。また、本研究では明らかな有害事象は確認されなかったが、投薬期間が24週間に限られたため長期投与による影響については十分検討されていない。両薬剤投与による片頭痛予防効果に関しては、今後より大規模な研究によって検討されるべきと考えられる。