Deep brain stimulation in headache 頭痛に対する脳深部刺激療法

Leone M and Proietti Cecchini A. Deep brain stimulation in headache.
Cephalalgia December 7, 2015 as doi:10.1177/0333102415607176.

【背景】

頭痛に対する脳深部刺激療法(DBS)の歴史は、神経血管性頭痛の発生源と考えられる部位を標的とした刺激療法の観察から始まった。Raskinら(1987年)は、難治性腰痛に対して主に中脳水道周囲灰白質を標的としたDBS 175例中15例(9%)に片頭痛様の重度頭痛が発症したと報告している。同様に、Velosoら(1998年)は頭痛既往のない患者で、中脳水道周囲領域、視床、内包を刺激した64例中15例(23.4%)に慢性頭痛を発症したことを発見している。電極留置から平均2ヵ月以上経過してから頭痛が発症しており、これは神経経路の活性化や閾値変化の結果であると考えられている。Sanoら(1975年)は後内側視床破壊術により、がんによる難治性二次性顔面痛が改善し、同時に顔面刺激により後内側視床で神経放電を観察したことを報告している。
1990年代後半、神経画像研究によって、いわゆる血管性頭痛、特に群発頭痛の見解が変わった。頭痛発作中の同側後視床下部領域の活性化と神経細胞密度の増加が群発頭痛患者で観察され、後視床下部が群発頭痛の発生源であると仮定されている。合わせて神経内分泌異常だけでなく、群発頭痛発作に顕著な規則性や季節性があることが群発頭痛患者で臨床的特徴としてみられるため、この部位が神経血管性頭痛の発生源として指摘されている。(*これらの報告に基づいて群発頭痛におけるDBSの標的が視床下部に設定されるようになりました。)
1990年代後半、筆者らの施設(イタリアCarlo Besta Neurological Institute)に38歳男性の難治性慢性群発頭痛が受診した。その患者は、主に夜間、最低4回/日の頭痛発作があり、毎回高血圧クリーゼ(260/160mmHg以上)を伴い、重度の眼球顔面症状と強い攻撃性行動を呈した。各種検査所見は全て正常であった。スマトリプタン注射を含む、あらゆる薬剤を使用したが効果はなかった。計4回の右三叉神経破壊術で右側の発作は消失したが、左側の群発頭痛は悪化し、難治性の右有痛性知覚麻痺を合併した。高血圧クリーゼ中に右硝子体出血により右眼は盲となり、左三叉神経手術は左角膜の後遺症による全盲を避けるため非適応と判断された。2000年7 月に左側の群発頭痛をコントロールする目的で視床下部刺激療法が施行された。電極留置単独と双極刺激のみでは効果はなく、単極刺激を開始し2週間経過したところで徐々に発作は消失した。患者に知らせず、刺激装置を停止させると頭痛発作は再発した。2001年5 月に右群発頭痛が重篤な随伴症状とともに再発し(視床下部刺激を行っている左側では頭痛なし)、あらゆる薬物治療は効果がなかった。その後、右側に対する視床下部刺激療法も一過性の副作用を伴うのみで問題なく実施された。
これまでに、視床下部刺激療法は様々な形の難治性短時間持続性片側性頭痛79症例に施行された。内訳は、主に三叉神経・自律神経性頭痛(TACs)で、慢性群発頭痛70例(88.6%)、症候性慢性群発頭痛様頭痛1例、SUNCT 3例、発作性片側頭痛1例である。1症例で群発頭痛とSUNCT を併発していた。視床下部刺激療法は、症候性三叉神経痛に対しても施行され有効性が報告されている。平均の追跡期間は2.2年で、55例(69.6%)の視床下部刺激療法患者において50%以上の改善効果を認めている。

【視床下部刺激の効果と認容性】

群発頭痛では、平均追跡期間2.2年で65.7%(46例)で50%以上の改善効果を認めており、23例(32.9%)では頭痛が消失している。慢性群発頭痛に対する脳深部刺激療法の唯一の二重盲検ランダム化比較試験があるが、この試験では盲検期間が1ヵ月であり、臨床的に有意な情報を得るには短すぎる。追跡期間が8.7年(中央値)と長い大規模な検討では、薬剤抵抗性慢性群発頭痛の70%(17例中12例)に改善効果がみられ、6例でほぼ頭痛消失、6例で反復性群発頭痛に変容している。数年間連続刺激を行った後に刺激装置を停止させても頭痛の改善効果が持続したが、これは視床下部刺激により疾患の経過が変化しうることを示唆している。
視床下部刺激(16症例における136発作)開始直後には、現在進行している群発発作に効果を示さないが、数週間の連続刺激により改善効果が得られてくる。これは視床下部刺激療法が、時間を要する複雑なメカニズムによって効果を示すことを示唆している。
群発頭痛患者の34%では、視床下部刺激療法で効果が得られなかった。同様に大規模な検討では、両側群発頭痛が80%(5例中4 例)であったが、その30%以下の患者で改善が得られず、また60%(5例中3例)で刺激開始後1-2年間は効果が得られたが、その後に耐性が形成されており、持続性の効果が得られたとしても、後に耐性が起こりうると考えられた。また、両側性群発頭痛では視床下部刺激療法への反応が乏しいことが予測される。
難治性TACsにおいても、視床下部刺激療法の効果がみられる。最低1年間の追跡後、SUNCT 3症例、発作性片側頭痛1例では明らかに改善効果を認めた。群発頭痛とSUNCTを併発した1例でも視床下部刺激療法後に改善している。
進行性血管筋脂肪腫が同側三叉神経への浸潤し発症した重症群発頭痛様頭痛に対しては確実に効果があった。
視床下部刺激は、薬物療法と三叉神経破壊術で効果のなかった症候性三叉神経痛(多発性硬化症)に対しても効果的であった。筆者らは、視床下部刺激療法が三叉神経第1枝領域の痛みにのみ改善を認めたと報告したが、これは各三叉神経分枝が異なった神経経路と調整メカニズム持っていることを示唆している。
患者が気付かずにDBSが停止していることは多く、特に刺激開始初年度では刺激装置の停止ごとに頭痛の再発が観察され、装置の再作動により頭痛発作は改善している。
報告されている有害事象は、電極の転位、感染、電極の誤留置、第三脳室内無症候性微小出血、持続性軽度筋力低下、けいれん、複視、重症めまい、パニック発作、一過性虚血発作、振戦、痙性斜頸、食欲や口渇感の変化、失神であり、脳出血による死亡例が1例報告されている。もともと睡眠障害のある2症例で睡眠パターンの変化が報告されたが、他の報告では視床下部刺激療法は睡眠パターンに影響を与えなかった。
その侵襲性のため、視床下部DBSは、他の低侵襲な神経刺激治療を試みた後に限って、慢性難治性TACsに対して提案されるべきである。

【視床下部刺激後の群発頭痛とTACsの病態生理についての理解】

視床下部刺激療法の開始直後には、現在進行している群発発作には効果が認められず、数週間の連続刺激により効果が得らてくる。これは、視床下部刺激が群発発作の複雑な予防メカニズムを介して効果を発揮していることを示唆している。PET研究では、視床下部刺激が、脳の痛み関連領域だけでなく同側三叉神経システムの脳活動性に変化をきたしていると報告されている。Fontaineらは(2010年)、視床下部電極を留置した慢性群発頭痛患者における視床下部電極の位置と効果について検討している。筆者らは、レスポンダーとノンレスポンダー間で、電極接触点と刺激部位の違いに有意差がなく、群発頭痛患者における視床下部刺激療法の効果の有無は電極位置とは無関係な要素によると示唆している。彼らはまた、治療効果は直接の視床下部刺激によるものではなく、視床下部群発頭痛発生源もしくは抗侵害受容性機構の調整による遅発効果によるものではないかと示唆している。同側の三叉神経第1枝領域における冷覚疼痛閾値上昇が、視床下部刺激療法中の慢性群発頭痛患者で観察されているが、これは、なぜ三叉神経痛における視床下部刺激療法が三叉神経第1枝領域においてのみ改善をもたらすかを説明しうるものである。

【論文のポイント】

  • 主に中脳水道周囲灰白質に対する脳深部刺激療法で、片頭痛様または群発頭痛様頭痛が生じることが観察されている。
  • 長期的な視床下部刺激療法では、三叉神経・自律神経性頭痛だけではなく、多くの薬物治療抵抗性群発頭痛で改善効果が期待できる。また三叉神経第1枝領域の三叉神経痛も改善させうる。しかし、これらの観察事項は今後のランダム化比較試験による確認が必要である。
  • これまでの視床下部刺激療法の観察は、短時間持続性片側性頭痛の病態生理において、後視床下部領域が頭痛発作の引き金になっているというよりも持続時間を調整しているだろうという重要な役割を示している。
  • 侵襲性が高いため、視床下部刺激療法は他の低侵襲な神経刺激治療を試みた後に限って提案されるべきである。

文責:松森保彦(仙台頭痛脳神経クリニック)