小児片頭痛患者に対するアミトリプチリンとトピラマートによる発作予防効果

Powers SW, et al. Trial of amitriptyline, topiramate, and placebo for pediatric migraine. N Engl J Med 2016 DOI: 10.1056/NEJMoa1610384

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景】

米国には600万人を超える小児期および思春期の片頭痛患者が存在し、片頭痛は学業や生活に悪影響を及ぼしている。 これらの患者に対して、どのような予防薬療法をEBM行うべきかに関してはエビデンスに基づいたコンセンサスが存在しない。 また、小児期・思春期の患者ではプラセボ効果が非常に高いことがランダム化試験による予防薬効果の実証を困難にしている。 本論文は、CHAMP (Childhood and Adolescent Migraine Prevention)トライアルと呼ばれるアミトリプチリン、トピラマート、プラセボの片頭痛予防効果をランダム化二重盲検試験によって比較した研究データが報告されている。

【方法・結果】

全米31施設で施行されたランダム化二重盲検による第III相臨床試験であり、8~17歳のICHD-2の診断基準を満たす前兆のない片頭痛、前兆のある片頭痛、慢性片頭痛の患者を対象とした。 2:2:1の比でアミトリプチリン投与群 (1 mg/kg)、トピラマート投与群 (2 mg/kg)、プラセボ群にランダム化された。 488名が参加に同意したが、最終的に361名が、アミトリプチリン投与群144名、トピラマート投与群145名、プラセボ群72名とランダム割り付けされた。 平均年齢は14.2 ± 2.4 (平均 ± SD)歳であり、68%が補正であった。治療期間は24週間とした。主要評価項目は、28日間における頭痛を認めた日数の50%以上のベースラインからの減少とした。 一次評価項目を満たした患者の割合は、アミトリプチリン投与群で52%、トピラマート投与群で55%、プラセボ投与群で61%であった。副次的な評価項目として、PedMIDASによるQOLの評価も施行された。 スコアの絶対数の変化はアミトリプチリン投与群で-22.5 (95%信頼区間, -27.6~-17.5)、トピラマート投与群で-26.8 (95%信頼区間, -32.2~-21.5)、プラセボ群で-22.6 (95%信頼区間, -30.2~-15.0)であった。 頭痛日数の変化は、アミトリプチリン投与群で-6.7日 (95%信頼区間, -7.9~-5.5)、トピラマート投与群で-6.7日 (95%信頼区間, -7.6~-5.7)、プラセボ群で-5.9日 (95%信頼区間, -7.7~-4.1)であった。 24週間の治療期間を完了できた患者の割合は、アミトリプチリン投与群で80%、トピラマート投与群で78%、プラセボ群で89%であった。 有害事象発生件数はアミトリプチリン投与群で301件、トピラマート投与群で419件、プラセボ群で132件であった。 アミトリプチリンでプラセボよりも有意に多く発現した有害事象は疲労感、口渇であった。 トピラマートでは、異常感覚 (paresthesia)と体重減少であった。

【結論・コメント】

本研究では、アミトリプチリンとトピラマートの両者はプラセボに比較して有効性が確認されず、かつ有害事象発生率は高かった。 したがって、両薬の使用は本研究の結果からは推奨されないという結論に至り、本研究自体は早期中止となった。 小児片頭痛患者にはプラセボ効果が高いことが改めて確認され、本研究のようなオーソドックスな臨床研究が薬効評価に適さないことを示す結果となった。 また、小児片頭痛診療においては、「医師が有効な治療を行ってくれている。」という思いを患者に抱かせることが重要と考えられる。