片頭痛と脳卒中との関連性を双生児レジストリーで検証した大規模研究

Lantz M, et al. Migraine and risk of stroke: a national population-based twin study. Brain 2017;140:2653-2662.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景・目的】

片頭痛は遺伝的素因に環境要因が加わることによって発症すると考えられている。 一方、脳卒中発症にも遺伝的要素と後天的な原因で生じたリスク因子の両者が関与すると考えられている。 片頭痛では、特に前兆のある片頭痛において虚血性脳卒中の発症リスクが高いと報告されている。 さらに片頭痛患者では脳出血発症リスクも高まるという報告がなされたが、その後発表された前方視的研究の解析ではそのような関連性は支持されなかった。 多くの研究は後方視的なものであり、この場合はリコールバイアスが加わりやすい。また、前方視的なデザインであっても、片頭痛と脳卒中の診断が自己申告された内容に基づく場合は正確性に欠ける。 本研究では、スウェーデンの双生児レジストリーを利用して、縦断的に片頭痛の状況と脳卒中発症が解析されており、かつ遺伝的因子の評価も行われている。

【方法・結果】

スウェーデンの双生児レジストリーの中のScreening Across the Lifespan Twin (SALT)研究に1958年以前に登録されたコホートに、ライフスタイルや病歴に関する電話インタビューを行った。1935~1958年までに登録された31105名に関しては、質問票によってICHD診断基準に則った一次性頭痛診断が可能であった。 データは1998年~2002年の間に収集された。 一方、Swedish Twin Study of Adults: Genes and Environment (STAGE)研究に1959~1985年の間に登録されたコホート22433名からも同様のデータをウェブ調査によって収集した。 全体の30.2%は一卵性双生児で、33.5%は同性二卵性双生児、34.4%は異性二卵性双生児であった。 脳卒中診断は、スウェーデン国内の医療機関を介した登録内容に従って行われた。 登録されたコホートの中で129名は脳血管障害の既往があるため、5名はデータ収集が不完全であったためそれぞれ除外された。 53404名の調査対象者の平均年齢は45.3歳であり女性は54.3%であった。 16.2%に相当する8635名が何らかの片頭痛診断を受け、6.7% (3553名)は前兆のある片頭痛、9.5% (5082名)は前兆のない片頭痛とそれぞれ診断された。
片頭痛を有する双生児は、高血圧、末梢性動脈疾患を有する率が高く、肥満の割合も高かったが、心房細動の有病率は低かった。対象者の平均フォローアップ期間は11.9年であった。 この期間中、1297件の初発脳卒中が確認された。1041件は虚血性脳卒中であり、242件は出血性脳卒中であった。 38名では虚血性の後に出血性脳卒中に罹患していた。脳卒中発症平均年齢は64,1歳であった。 発症年齢と性別を考慮した一次解析では、全ての片頭痛患者と前兆のない片頭痛患者において脳卒中発症の関連は有意ではなかった (それぞれのハザード比1.07 [95%信頼区間0.91~1.26]、0.97 [95%信頼区間0.79~1.19])。 多変量解析を行ってもその結果は変わらなかった。前兆のある片頭痛のみの解析ではリスク増加は27%とわずかに有意であった。 前兆のある片頭痛では男性に比較して女性での脳卒中発症リスクの上昇の程度が大きかった。特に50歳以下の双生児において高いリスク上昇効果が認められた。 しかし、前兆のない片頭痛では男女差を認めなかった。 一方、双生児の中の一方のみが片頭痛の組について脳卒中発症を解析すると、ハザード比は1.09 (95%信頼区間0.81~1.46)であり、有意な上昇ではなかった。

【結論・コメント】

今回の50000人を超えるコホートで前方視的に解析されたデータでは、片頭痛全体では脳卒中発症に関して明らかな相関を認めなかった。 前兆のある片頭痛に関しては27%のリスク上昇が認められたため、従来のデータを支持するものと考えられたが、2倍に及ぶような大きなリスクではなかった。 また、双生児ペアに限った解析では片頭痛による脳卒中発症リスクのハザード比は下がったので、何らかの遺伝的あるいは(非遺伝的な)家族性の要因が脳卒中発症に関わっているために、片頭痛の影響が希釈されたものと考えられる。 しかし、この点に関しては解析数自体が少ないことが問題点として挙げられている。