反復性および慢性群発頭痛急性期治療としての非侵襲的迷走神経刺激術

Goadsby PJ, et al. Non-invasive vagus nerve stimulation for the acute treatment of episodic and chronic cluster headache: a randomized, double-blind, sham-controlled ACT2 study. Cephalalgia(2017) DOI: 10.1177/0333102417744362

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景】

群発頭痛発作は極めて激しい頭痛を特徴とし、患者さんのQOL障害を著しく障害する。 現在はトリプタン皮下注や酸素投与などで発作時の治療を行っているが、そのような治療によって十分な症状コントロールができない症例もある。 また、反復性群発頭痛 (eCH)に比較して慢性群発頭痛 (cCH)では1年以上にわたって寛解を認めないため特にQOL障害が強い。 群発頭痛に対する新たな治療法として非侵襲性迷走神経刺激術 (nVNS)が行われている。 最近はコンパクトで頸部の迷走神経の枝を経皮的に刺激可能なデバイスが開発されている。既に欧米で行われたACT1と呼ばれる臨床研究によってeCHの発作に対する有効性は示されている。 本研究は、ヨーロッパで行われたランダム化二重盲検試験であり、eCHおよびcCH患者の急性期治療としてのnVNSの有効性を検討している。

【結果・方法】

2013年9月から2014年10月までヨーロッパ4か国で施行された研究で、1週間のランイン時期の後に2週間の二重盲検期間を行い、さらに2週間のオープンラベル試験を実施した。 対象はICHD診断基準を満たす18歳以上のeCHおよびcCH患者とした。ランイン時期からは、新規治療の開始や既に投与されている薬剤の投与量の変更を行わないこととした。 VNS刺激は200マイクロ秒のパルスを5 kHzの頻度で最大強度24 Vで行った。 偽刺激は刺激された感覚は被検者には伝わるものの迷走神経刺激とならない低頻度二相性シグナルを用いて行われた。 発作時に頭痛側の頸部にデバイスを押し当てて、120秒間刺激を3回連続行った。 もし、刺激開始後9分経過しても頭痛が収まらない場合は、さらに3回の連続刺激を追加で施行してよいこととした。 治療開始から15分後時点で発作が頓挫する割合を主要評価項目とした。 495回の発作に対してnVNSが、400回の発作に対して偽刺激が施行された。 全患者に関して評価を行うと、nVNSで14%、偽刺激で12%の発作で15分以内で頭痛頓挫が認められ、両者に有意差は認められなかった。 しかし、eCH患者に限定すると、nVNSで48%の発作で一時評価項目が達成されたのに比較して、偽刺激では6%であり、両者に有意差が認められた (P < 0.01)。 副次的評価項目として治療開始30分以内に発作頓挫が認められる割合を評価したところ、全患者対象でnVNSにより43%が、偽刺激で28%が達成されておりその差は有意であった (P = 0.05)。 しかし、eCHとcCHを個別に評価すると有意差は認められなかった。治療開始後15分および30分での発作開始時からの頭痛強度減少に関してはeCHでのみ有意差が認められた。 探索的評価項目として設定された治療開始後15分時点で50%以上の割合で発作頓挫が認められた患者の割合に関しては全コホート及びeCH患者についてはnVNSが偽刺激に比較して有意差をもって有効性を発揮した。 一方、特に問題となる有害事象は認められなかった。

【結論・コメント】

nVNSは特にeCH患者において迅速に効果を発揮するものと考えられた。安全性も高いため、今後実臨床で用いられることが期待される。