デンマークで行われた片頭痛の心血管病リスクに関する人口ベースでのコホート研究

Adelborg K, et al. Migraine and risk of cardiovascular diseases: Danish population based matched cohort study. BMJ 2018;360:k96.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景】

最近の疫学研究によって片頭痛が脳梗塞を始めとした心血管病のリスクになりうる可能性がクローズアップされている。 内皮障害、血管スパズム、凝固能亢進、卵円孔開存を介した左右シャントなどの機序が想定されている。 若年層においては前兆のある片頭痛 (MA)が脳梗塞のリスクファクターである可能性は指摘されているが、人口ベースでの大規模なスケールでの検討は少ないのが現状である。

【方法・結果】

デンマークでのすべての医療機関が属する国民健康保険プログラムのレジストリー (Danish National Patient Registry)を用いて1995年1月1日~2013年11月30日の記録をもとにICD-10で片頭痛患者とコードされた者のデータを採集した。一方、一般人口の比較対照としてはデンマーク市民登録システムから1人の片頭痛あたりに10名の片頭痛がなく年齢と性別が一致した比較対照者を選別した。なお、経過観察中に片頭痛と診断された場合にもそのまま対照群に含めて解析を行った。片頭痛患者51032名、比較対象者510320名が選択された。片頭痛の平均診断年齢は35歳で、71%が女性であった。 心血管リスク因子に関しては、糖尿病、肥満、高血圧などの有病率は片頭痛コホートでわずかに高い傾向にあった。 片頭痛コホートにおいては2351名に1つの心血管イベントが、575名に2つ以上の心血管イベントが生じた。19年間のフォローアップ期間において、1000名あたりの累積発生率の比較は、片頭痛コホートと一般人口の順で、心筋梗塞25対17、虚血性脳卒中45対25、出血性脳卒中11対6、末梢動脈性疾患13対11、静脈性血栓塞栓症27対18、心房細動あるいは心房粗動47対34、心不全19対18であった。したがって、片頭痛患者では調整ハザード比は心筋梗塞1.49 (95%信頼区間1.36~1.64)、虚血性脳卒中2.26 (95%信頼区間2.11~2.41)、出血性脳卒中1,94 (95%信頼区間1.68~2.23)、静脈性血栓塞栓症1.59 (95%信頼区間1.45~1.74)、心房細動あるいは心房粗動1.25 (95%信頼区間1.16~1.36)と有意に高かった。 特に発症リスクが高かったのは、診断されてから1年間であった。 診断1~5年後、5~19年後においても心筋梗塞、虚血性脳卒中、出血性脳卒中、静脈性血栓塞栓症、心房細動あるいは心房粗動に関しては調整ハザード比が高いままだった。前兆の有無に関するデータは30069名で得られたが、全般的にMA患者では前兆のない片頭痛 (MO)に比較して調整ハザード比は高かく、MAでは心筋梗塞、虚血性脳卒中、出血性脳卒中、静脈性血栓塞栓症の長期リスクがあることが判明した。

【結論・コメント】

片頭痛患者、特にMAにおいては心血管病リスクが一般人口に比較して高まっている可能性が大きなデータを用いて示されたといえる。ただし、研究対象となっている者は平均年齢35歳であり、その後の19年間に注目した研究であるため、心血管病の発症が比較的少ない年代で得られたデータであることには注意が必要である。 対照となる一般人口での発症が少ないために分母が小さくなり、絶対数は少なくても倍率では大きく算出されることになる。 また、本研究では片頭痛コホートでの糖尿病、肥満、高血圧などの血管障害リスク因子を有している例が対照群に比較してやや高頻度であったことも、イベント発生率に影響を与えた可能性が指摘できる。さらに、片頭痛の診断は必ずしも国際頭痛分類の診断基準に則って専門医が行っていないこともあり、動脈解離や動静脈奇形などが十分除外されていない可能性があることにも注意が必要であろう。