片頭痛急性期治療としての非侵襲的迷走神経刺激術

Tassorelli C, et al. Noninvasive vagus nerve stimulation as acute therapy for migraine. Neurology 2018 doi: 10.1212/WNL.0000000000005857.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景・目的】

片頭痛治療急性期にはトリプタンやNSAIDsなどが用いられているが、薬物相互作用、有害事象、薬剤の使用過多による頭痛 (MOH)発生などの懸念が存在する。 一方、非侵襲的なニューロモデュレーション治療が近年注目されている。非侵襲的迷走神経刺激術 (nVNS)はパイロット研究によって片頭痛急性期治療に有効であることが示されており、簡便かつ安全である。 オープンラベル試験では治療開始2時間時点でのレスポンダー率は頭痛消失率21%、頭痛改善率47%と報告されている。しかし、大規模研究におけるエビデンスは現時点で示されていない。 本研究は、片頭痛急性期治療におけるnVNSの効果と安全性および忍容性を調べる目的で施行された比較的規模の大きいランダム化臨床試験である。

【方法・結果】

2016年1月~2017年3月までイタリアの10施設で施行された多施設二重盲検ランダム化試験 (Prospective Study of nVNS for the Acute Treatment of Migraine: PRESTO trial)である。 片頭痛発作が月に3~8回 (頭痛を認める日数が15日未満)患者を対象に4週間の導入期 (run-in period)、4週間の二重盲検期間、4週間のオープンラベル試験を設定した。 片頭痛予防薬を用いている患者も参加可能だったが、研究登録の2か月前からは投与パターンを変更せず、研究期間中に新規の予防薬の使用を禁止することが条件とされた。患者はnVNS群とsham群に割り付けられた。 刺激は5 kHzで1 ミリ秒間、低電圧 (最高24 V)を40 ミリ秒ごとに繰り返すことで施行された。 Sham群では0.1 Hzの二相性シグナルを患者が感じるように刺激が行われたが、実際の迷走神経刺激や筋収縮は起こさないように設定された。 発作開始から20分以内に刺激を開始し、主要評価項目は急性期治療を用いることなく刺激開始から120分後における頭痛消失とした。 副次的評価項目は30分後あるいは60分後における頭痛消失、30分後、60分後、120分後における頭痛改善、随伴症状消失とした。 当初285名が登録され、122名がnVNS群に、126名がsham群にそれぞれ割り付けられた。頭痛消失率に関しては、刺激開始30分および60分後においてnVNS群がsham群に比較して有意に高かったが、主要評価項目とした120分後においては有意差を認めなかった (95%信頼区間 22.2~39.9% vs. 13.0~28.6%, P = 0.067)。 頭痛改善率に関しては、刺激開始120分後においてnVNS群がsham群に比較して有意に高かった (95%信頼区間 32.0~50.2% vs. 20.0~36.4%, P = 0.030)。 頭痛強度と効果の一貫性 (50%以上の発作において刺激開始120分後に頭痛改善を認められた率で評価)に関してもnVNS群が優れていることが示され、随伴症状に関しては刺激開始120分後における悪心を訴えた率がnVNS群でsham群に比較して低い傾向を示した。 また、nVNSの効果はオープンラベル期間においても継続して認められた。安全性や忍容性に関しては、刺激部位の不快感や鼻咽頭炎などがnVNS群で高い傾向があったが、重大な有害事象は確認されなかった。

【結論・コメント】

今回の結果は、nVNSが片頭痛急性期治療として有効であり、安全であることを実証したと考えられる。 主要評価項目であり、刺激開始120分後での頭痛消失率に有意差は見られなかったものの、30および60分後で有意差が確認されたことは、本治療法の速効性を裏付ける結果と解釈できる。安全性に関しても大きな懸念がないように思わることから、今後薬物治療を補完する有効な治療法として確立される可能性がある。