カフェルゴット販売中止に伴う治療上の留意点

要旨:片頭痛急性期治療薬として使用されているカフェルゴット®錠(酒石酸エルゴタミン1㎎ 、無水カフェイン 100㎎)が本邦では販売中止となる見通しである。代替急性期治療薬としては①クリアミン錠、②トリプタン製剤、③鎮痛薬等があるが、それぞれの特徴を理解して適切に切り替える必要がある 。特に長期間カフェルゴット®錠を中心に治療してきた患者では配慮が必要である 。薬物乱用頭痛への移行に留意し、必要であれば予防療法の併用を考慮することが望ましい。

1.カフェルゴット®販売中止の経緯
エルゴタミンは 1926 年1)に片頭痛の治療薬として使用され、その後カフェインと併用することによって効力が増大することが確認され2)、酒石酸エルゴタミン1㎎と無水カフェイン 100㎎の合剤が、カフェルゴット®の商品名で長きにわたって片頭痛の主力薬剤として国際的に広く使用されてきた。
トリプタンの出現によって、カフェルゴット®の存在価値が低下したことから、ノバルティスでは世界的に販売中止の方向性が決定され、海外工場からの調達が困難になるため、日本では2008年3月31日をもって販売中止し、4月に薬価削除申請、11月頃から経過措置期間となり2009年3月31日をもって保険薬価削除の予定である。

2.国内の頭痛診療におけるカフェルゴット®使用の現況
現在でもまだ国内にはかなり多くの片頭痛患者が本剤を使用しているところから、これらの患者に対する対応が急がれる。とりわけ本剤中止によって、かなり多くの患者が混乱をきたすことが予測され、それを可能な限り回避する目的で日本頭痛学会としての対応策の検討が必要となった。カフェルゴット®の特徴は各種トリプタンと比較して、効力が弱いこと、血中濃度の安定性に欠けること、悪心・嘔吐が多いこと、四肢冷感などが生じやすいこと、などの短所が指摘されていた。反面、長所として、血中濃度の維持が長く3)、したがって再発性頭痛が現れにくいこと、また一週間最大10錠まで使用できること、長期的使用で効力が低下しづらいことなどの特徴がある。
現在カフェルゴット®を使用している患者は、治療歴も概して長く、臨床像の変容、高齢化、多種の薬物使用歴などの背景が関与している場合が少なくないので、それらの点を考慮しながら治療変更がなされることが重要である。

3.カフェルゴット®治療変更時に配慮すべき点
①同種同効品への変更
同種の酒石酸エルゴタミン配合薬はクリアミンA®およびクリアミンS®がある。 クリアミンA®(日医工)は、酒石酸エルゴタミン 1㎎、無水カフェイン 50 ㎎、イソプロピルアンチピリン 300 ㎎ の合剤である。クリアミンS®はクリアミンA®の半量含有の合剤である。当面カフェルゴットからの切り替えとしてはもっとも近い組成の薬剤である。
問題点としては、イソプロピルアンチピリンの存在によって 、やや乱用になりがちになる可能性が考えられること、および薬剤吸収を高めるためにはカフェインの量がやや少ないのではないかと考えられる。クリアミンの過剰使用(月に10日以上)による薬物乱用頭痛を引き起こさないように、注意する必要がある。

②トリプタンへの変更
トリプタンは有効性の高い薬剤で、カフェルゴット®より痛みの改善度は大きい。一方カフェルゴットは効果の持続時間が長く、3日間血管収縮が続くことが指摘3)されている。
したがってトリプタンは作用時間が短いことから再発性頭痛が出現しやすい。
また国際頭痛学会改訂分類4)では、薬物乱用頭痛にならないために、10日/月以内の使用が示されている。したがって再発性頭痛に使用することも含めたうえで10日/月以内の使用を遵守すべきである。

③鎮痛薬 (通常鎮痛薬および非ステロイド性消炎鎮痛薬)への変更
鎮痛薬は通常鎮痛薬(アセトアミノフェン、アスピリン、イブプロフェン)と消炎鎮痛薬(NSAIDs)に分けられる。概してNSAIDsの方が効力が高いが副作用も多い。いずれにせよ血管収縮をきたさないので、効果が十分とは言えないが、患者が納得できる程度の効果が得られるなら、選択の対象となる。いずれの薬剤もカフェインを追加することによって効力が高めることが知られている5)。国際頭痛学会改訂分類4)では薬物乱用を防ぐ意味で10日/月以内の服用を守る必要がある。
外国では通常鎮痛薬ではアセトアミノフェン、イブプロフェン、NSAIDsではナプロキセンの成績が優れていることが示されているが、わが国でのこれらの詳しい比較、検討はない。鎮痛薬にコデインを付加した、麻薬性鎮痛薬が外国ではしばしば使用される。
効力は鎮痛薬単独に比較して高いことか示されている5)。耽溺性があるので注意が必要である。わが国ではコデインを加えた成績の報告はない。

④予防薬の活用
連用することによって頭痛発作頻度を減らす作用を有する薬剤が知られている。これらを頭痛予防薬(健康保険上では頭痛治療薬として一括)と呼ぶ。薬剤の種類は多岐にわたるが有効性を発揮するまで1カ月くらいは要すること、有効性、有効率は必ずしも高くない場合がある、個人差が大きいなどの問題点がある。
わが国で保険適用となっているのは、塩酸ロメリジン(ミグシス®、テラナス®)のみである。外国では経口薬のうちでもっとも優れているとされるトピラメートは、わが国では現在臨床試験段階である。
保険適用外のものとして、小規模試験、オープン試験を含めて、有効性が報告されているものでは、ロメリジン以外のCa拮抗薬、β遮断薬、ACE阻害薬、抗てんかん薬、抗うつ薬、セロトニン拮抗薬、睡眠薬、ビタミンB2 、Co Q 10 、ボツリヌス毒素などが挙げられる。
これらの薬剤を使用する場合には、各種文献・成書など6)を詳細に確認した上で臨床応用することか必須である。

〔文献〕

1)Maier HW.:L'ergotamine inhibiteur du sympathathique etidie en clinique comme
  moyen d'exploration et comme agent th erapeutique.
  Rev Neurol 33:1104-1108, 1926

2)Schmidt R, Fanchamps A.: A effect of caffeine on tntestinal absorption of
  ergotamine in man. Eur Clin Pharmacol 7:213-216, 1974

3)Spierings ELH. :Management of migraine. Buutterworth-Heinemann, Oxford 1996.

4)Headache Classification Subcommittee of the InternationalHeadache Society:
  The headache classification of headache disorders. 2nd edition. Cephalalgia
  24(suppl 1):1-160, 2004 ──国際頭痛学会・頭痛分類委員会【著】・日本頭痛学会・
  国際頭痛分類普及委員会【訳】:国際頭痛分類第2版 新訂増補日本語版、医学書院 、東京、2007

5)Robbins LD: Management of Headache and Headache Medications. Springer-Verlag, New York, 1995.

6)寺本純:臨床頭痛学, 診断と治療社, 東京, 2005