β遮断薬と行動療法の併用による片頭痛予防効果の検討

Holroyd KA, et al. BMJ
Effect of preventive (β blocker) treatment, behavioural migraine management, or their combination on outcomes of optimised acute treatment in frequent migraine: randomized control trial. doi
2010;10.1136/bmj.c4871

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景】

従来から、β遮断薬やカルシウム拮抗薬などによる薬物療法が片頭痛発作予防に用いられている。一方で、患者に発作の誘因を認知させ、その回避法を習得させるといった行動療法の重要性も最近認識されるようになってきた。本論文は、1ヶ月に3回以上発作のある片頭痛患者を対象に、β遮断薬による薬物療法と行動療法を組み合わせることで発作予防効果が増強されるかを検討した臨床研究報告である。

【方法・結果】

対象は232人の成人片頭痛患者で、53人がβ遮断薬投与のみ、55名がプラセボ投与のみ、55名がプラセボ投与と行動療法、69名がβ遮断薬投与と行動療法といったようにグループ化された。研究デザインとしては、1ヶ月のrun-in期間の後に、行動療法施行とβ遮断薬の至適投与量決定を3ヶ月かけて行い、その後12ヶ月間にわたって治療効果を検討している。急性期治療は各症例で最善の治療法が検討され、発作毎にそれが施行された。平均年齢は38.2歳とやや高齢で、平均罹病期間は15年であり、女性が79%を占めていた。平均発作回数は5.5回/30日で片頭痛特異的QOLスコア (migraine-specific QOL score)の平均は39.6点であった。行動療法は専門のセラピストによって1ヶ月毎に施行された。その具体的な内容としては、①片頭痛の病態についての説明。②筋緊張緩和法や深呼吸法の習得によるリラクゼーション療法。③片頭痛の前駆症状や誘因についての認知。の3点が基本で、さらに、特にストレスが主な片頭痛の誘因である一部の症例には認知行動療法を導入し、ストレス以外が主な誘因である症例の一部で温度バイオフィードバック・トレーニングの導入が行われた。結果としては、β遮断薬に行動療法を行った群で30日当たりの片頭痛の起こった回数は平均で3.3回減少し、プラセボ投与のみで行った群に比較して有意な改善を認めた。β遮断薬のみあるいは行動療法のみでは改善傾向はあったものの有意差には至らなかった。一方、β遮断薬と行動療法を行った群で30日当たりに臨床的に有意な片頭痛発生の減少 (50%以下)を得るためのNNTは、プラセボ群との比較では3.1、β遮断薬のみの群と比較すると2.6、行動療法のみが行われた群と比較すると3.1であった。

【結論】

発作頻度の高い片頭痛患者では、β遮断薬のみの予防治療を行うよりも、行動療法を加えた方が、高い改善効果が得られる可能性が示された。