閉鎖性頭部外傷の重症化や繰り返す脳震盪がラットの頭部外傷モデルにおいて受傷後の頭痛様行動を増幅する

Bree D, et al. Increased severity of closed head injury or repetitive subconcussive head impacts enhances post-traumatic headache-like behaviors in a rat mode
Cephalalgia 2020, DOI: 10.1177/0333102420937664

【目的】

頭部外傷後の頭痛は最も一般的で、患者の健康に影響を与え、そして管理が難しい症状の1つである。それにもかかわらず、頭部外傷の前臨床モデルの不足と外傷後頭痛のメカニズムが十分解明されていないため、新しい治療アプローチの開発が進んでいない。これらの問題点を解決するため、以前、筆者らはラットを用いた250gの分銅を高さ80cmから垂直に落下させ頭部打撃を与える軽度閉鎖性頭部外傷モデルによって、頭部外傷後の頭痛様行動の発生について検討している。今回、同様の動物モデルを用いて追跡調査を行い、前臨床研究の条件をさらに拡張し、単回でより重症の頭部外傷(450gの分銅落下:即死率<20%)と反復打撃による頭部外傷(150gの分銅落下)を受けたオスラットにおける頭痛様行動の発生を調査した。加えて、頭痛様行動における末梢カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)の関与ついて、抗CGRP抗体を全身投与することにより検証した。

【方法】

成体オスSprague Dawleyラット(n=138)に対して重量落下装置を用い、次の3つの閉鎖性頭部外傷(closed head injury; CHI)群と疑似処置(sham)群に分け、びまん性閉鎖性頭部外傷を与えた;450gによる単回打撃、150 gによる単回打撃、150gによる72時間ごとに計3回の打撃。オープンフィールドテストの変化と、頭部および頭部以外の触覚痛覚過敏症の発症について頭部外傷後42日まで評価した。抗CGRP抗体もしくはそのコントロールIgG(各30 mg/kg)の腹腔内投与を、450 gによる打撃直後、または3回目の150 gによる打撃直後に行い、その後6日ごとに計7回追加投与した。

【結果】

450 gによる単回打撃を受けたラットは、オープンフィールドテストによる活動性の急激な低下と接触走性の増加を示し(450gCHI群n=8, sham群n=8)、頭部の触覚痛覚過敏症が受傷6週間後まで続いた(450gCHI群n=15, sham群n=11)。また、頭部以外の触覚痛覚過敏症も受傷後6週間の時点において長期間遷延していた。150 gによる打撃の場合、単回ではなく反復的に打撃を受けた群で、活動性の低下と頭部および頭部以外の触覚痛覚過敏症が受傷6週間後まで続いた(150g単回CHI群n=8、150g×3CHI群n=8、各sham群n=8)。受傷後早期および長期の抗CGRP抗体投与により、重度および反復的頭部外傷モデル両群でともに、頭部の触覚痛覚過敏症の発生が有意に抑制された(450g抗CGRP抗体群n=8;150g×3抗CGRP抗体群n=8,コントロール群n=8)。

【結論・コメント】

重症頭部外傷は、頭部と頭部以外の触覚痛覚過敏症の長期化を引き起こす。また頭痛様行動は、反復的な頭部打撃に続発して発生する。今回の検討で、重度および反復性の軽度閉鎖的頭部外傷後により増幅された頭部の触覚痛覚過敏症は、受傷後早期および長期の抗CGRP抗体の投与によって改善されたが、これは頭部外傷後に頭痛が発症するメカニズムとしてCGRPが関連し潜在的に三叉神経起源であることを示唆している。
オープンラベル試験ではあるが、抗CGRP受容体抗体であるerenumabのヒトにおける頭部外傷後頭痛に対する有効性と忍容性が報告されており(Ashina H, et al. Efficacy, tolerability, and safety of erenumab for the preventive treatment of persistent post-traumatic headache attributed to mild traumatic brain injury: an open-label study. J Headache Pain 2020 Jun 3;21(1):62. doi: 10.1186/s10194-020-01136-z)、頭部外傷後頭痛とCGRPとの関連、また抗CGRP受容体抗体・抗体による治療の可能性について今後の動向が注目される。

文責:仙台頭痛脳神経クリニック 松森保彦