家族性片麻痺性片頭痛1型 (S218L変異)におけるCav2.1カルシウムチャネルの機能異常

Di Guilmi MN, et al. Synaptic gain-of -function effects of mutant Cav2.1 channels in a mouse model of familial hemiplegic migraine are due to increased basal [Ca2+]i. J Neurosci 2014;34:7047-7058.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景】

家族性片麻痺性片頭痛1型 (familial hemiplegic migraine type 1: FHM1)の責任遺伝子はCACNA1Aであり、電位開口型P/Q型カルシウムチャネルCav2.1のα1サブユニットをコードしている。本研究では、FHM1を引き起こすS218L変異を有するCACNA1Aノックイン (KI)マウスを用いて、詳細な電気生理学的解析を行っている。S218L変異によるFHM1は、片麻痺性片頭痛にとどまらず小脳失調・てんかん発作・頭部外傷による致死性脳浮腫など多彩な症状を呈し、FHM1の中でも重症型として知られている。本研究では、Heldのカリックス (calyx of Held)という部位で解析が行われているが、これは前腹側聴神経核由来の軸索とシナプスを形成しており、同定が容易で大きな構造を有する特徴からシナプス機能の電気生理学的解析にしばしば利用されている。

【方法・結果】

S218L KIマウスのHeldのカリックスを含む脳幹組織切片を作成し、全細胞パッチクランプ法 (whole cell patch-clamp)で電気活動を記録した。Heldのカリックスにおけるシナプス前膜側でのカルシウム電位を計測したところ、野生型とKIマウスの切片における・アガトキシン-IVA (P/Q型カルシウムチャネルのブロッカー)による阻害効果は両者で同程度であり、かつ90%以上の強い阻害効果が認められた。以上より、Heldのカリックスにおけるカルシウムチャネル活性の大部分は変異の有無に関わらずP/Q型チャネルによって担われていると考えられた。シナプス前膜における電流・電位カーブを作成したところ、KIマウスでは、より陰性電位側でカルシウム電流が発生していた (KIマウス: -60 mV, 野生型: -40 mVでそれぞれ発生)。ただし、その振幅は野生型に比較して低下していた。また、電位-30~0 mVの範囲においてカルシウム電流カーブのスロープがKIマウスでより急峻であり、細胞内へのカルシウム流入が速く生じていることも明らかとなった。さらに、野生型に比較してKIマウスにおいて、Cav2.1チャネルが静止膜電位に近い電位で活性化されていることも判明した。これに一致するように、Heldのカリックスにおける細胞内カルシウム濃度はfura-2による測定で、野生型に比較して平均で約3倍に上昇していることが観察された。一方、カルシウム電流の促通現象を解析したところ、KIマウスでは100 Hzおよび300 Hzでの活動電位負荷時に生じる促通現象の程度は野生型に比較して有意に小さかった。Heldのカリックスのシナプスにおける微小EPSC (excitatory post-synaptic current: 興奮性シナプス後電流)は、野生型1.6 + 0.3 Hzであるのに対してKIマウスでは7.1 + 2.1 Hzと有意に (p<0.0001)に高頻度に認められ、これはω-アガトキシン-IVAによって抑制された。つまり、KIマウスではP/Q型カルシウムチャネルを介する細胞内へのカルシウム流入によって、自発的な神経伝達物質放出が促進されていると考えられた。さらに興味深いことには、Heldのカリックスを電気刺激した後に認められるEPSC振幅は野生型に比較してKIマウスで有意に大きかった。これは、シナプス前膜で同じように活動電位が生じた際に、KIマウスでは神経伝達物質であるグルタミン酸がより多く放出されるためと推測された。さらに、KIマウスでは、シナプスでの短期抑制 (short-term depression)が生じやすく、かつ短期抑制からの回復が急速に起きることも観察された。

【結論】

これまでもFHM1の病態はCav2.1の機能獲得型 (gain-of-function)変異によって説明可能と考えられていたが、本研究ではHeldのカリックスを解析対象にすることで詳細な形で電気生理学的異常を明らかにしたといえる。カルシウムチャネルが開口しやすいこと、細胞内カルシウム濃度が上昇していること、EPSCが亢進していることなどがin vivoで明らかとなり、FHM1ではシナプス機能の異常亢進により皮質拡延性抑制 (cortical spreading depression: CSD)が生じやすくなっている可能性を強く支持するデータと解釈できる。また、S218L変異は片頭痛だけでなく、小脳萎縮や外傷後の高度の脳浮腫などが生じることも知られている。それらの異常も細胞内カルシウム濃度上昇に起因するニューロンの機能異常や変性によって説明可能ではないかと考えられる。

【本研究に対するコメント】

本研究で明らかにされたデータの中で特に興味深いことは、シナプス前膜でのカルシウム電流が小さいにも関わらずKIマウスでは神経伝達物質の放出量が多くなってEPSCが効率よく生じていることで、FHM1でシナプス伝達が異常亢進していることを明瞭に物語っている。一般の片頭痛患者を対象に施行されたGWASにおいて疾患感受性遺伝子候補に挙げられている遺伝子は、シナプス機能に関連するものが多い。本研究は、片頭痛の基本病態におけるシナプス機能異常の役割の重要性を示す貴重なデータを提供していると評価できる。