CGRPとPACAP38による片頭痛予兆症状の誘発

Guo S, et al. Premonitory and nonheadache symptoms induced by CGRP and PACAP38 in patients with migraine. Pain 2016;157:2773-2781.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景・目的】

片頭痛では頭痛に数時間~2日先行して予兆が認められる患者がおり、予兆の頻度は88%に上るとの報告もある。 予兆は片頭痛の病態に中枢神経系の異常が関与することを示唆するのみでなく、病態の上流にあるイベントが原因と考えられているため片頭痛のメカニズムを解明する上で非常に重要な研究対象と考えられている。 最近の研究では、一酸化窒素供与体であるグリセリルトリニトレート (glyceryl trinitrate)によって予兆が誘発され、同時にPETで視床下部の異常活性化が検出されている。 カルシトニン遺伝子関連ペプチド (CGRP)とpituitary adenylate cyclase-activating peptide 38 (PACAP38)は片頭痛病態で重要な役割を果たすペプチドであり、両者は片頭痛患者に投与されると、遅発性の片頭痛様発作を誘発可能である。 本研究では両者の予兆誘発作用が検討された。

【方法・結果】

72名の前兆のない片頭痛患者を対象とした。 急性期治療薬の使用過多や身体的あるいは精神的合併症のある患者は除外された。 α-CGRPを40名の患者に1分間に1.5 μg、PACAP38を32名の患者に1分間に10 pmol/kg体重の速度でそれぞれ20分間持続静注した。 被験者では、投与開始の48時間前から頭痛がなく、急性期頭痛薬を使用していないことを確認した。 薬剤投与開始から頭痛誘発 (片頭痛様発作誘発ではないことに注意)までの間に生じた症状を予兆に関連した症状 (premonitory symptom: PS)として記録した。 また、頭痛終了後から薬剤投与12時間後までの間をpostdrome phaseと定義した。 PACAP38投与群では23名 (72%)が、CGRP投与群では25名 (63%)が片頭痛様発作を発生したが、その性状や部位に有意な差は認められなかった。 なお、被験者全員が静注後に頭痛症状は経験していた。 PSに関しては、CGRP投与群では頭痛発作を呈した患者の中で2名のみが、頭痛発作を認めなかった者には全く訴えがなかった。 CGRPによって誘発された頭痛には悪心や光過敏なども随伴した。 一方、PACAP38投与群では頭痛発作を認めた者の中で11名 (48%)が、頭痛発作を訴えなかった患者の中では1名 (11%)のみがPSを訴えた。 前者の11名の中で、通常の発作時にPSを認める者は7名であった。 疲労感 (91%)、悪心 (74%)、あくび (65%)が最も多い非頭痛症状であった。 それ以外に、頸部のこわばり、光過敏、喉の渇き、集中力低下、空腹感、音過敏が観察された。 また、今回研究対象となった患者の中で28名に特に強い片頭痛の家族内集積が認められた。 しかし、家族内集積の高低差によってPSの誘発率に有意差は認めなかった。

【結論・コメント】

本研究では、PACAP38にはCGRPに比較してPSを誘発させやすい性質があることが確認された。 予兆は視床下部を中心とした中枢神経系の異常によって発生すると考えられている。 CGRPは血液脳関門 (BBB)を越えにくいが、PACAP38には特異的なトランスポーターが存在しているために、CGRPに比較するとBBBを越えて中枢神経系に移行しやすいことが知られている。 かつ、PACAP38の受容体であるPAC1は視床下部での発現も確認されている。 今後は、PACAP38の視床下部ニューロンの活性化に関する研究の発展が望まれ、新たなPACAP38が新たな治療標的として確立される可能性も考えられる。