Erenumab (AMG 334)の慢性片頭痛患者に対する予防効果と安全性

Tepper S, et al. Safety and efficacy of erenumab for preventive treatment of chronic migraine: a randomised, double-blind, placebo-controlled phase 2 trial. Lancet Neurol 2017;16:425-434.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景・目的】

カルシトニン遺伝子関連ペプチド (calcitonin gene-related peptide: CGRP)は片頭痛病態に深く関与していると考えらえており、CGRPを標的にした片頭痛治療薬が開発中である。 慢性片頭痛は片頭痛の中でも重症度が高く、患者のADLは著しく損なわれる。慢性片頭痛の有病率は1~2%と推定されており、決して少なくはない。 慢性片頭痛に対してはトピラマートやボツリヌス毒素が治療薬として用いられているが、難治例が多いこともあり経口薬治療に対するアドヒアランスは低く、治療開始6ヵ月後の時点で26~29%、12ヵ月後には17%と報告されている (Hepp Z, et al. Cephalalgia 2015;35:478-488)。 Erenumab (AMG 334)はCGRP受容体に対する完全ヒトモノクローナル抗体であり、すでに発作性片頭痛の予防効果が実証されている。 本論文では、同薬の慢性片頭痛予防効果と安全性を検討した第II相試験の結果が報告されている。

【方法・結果】

2014年4月から2015年12月まで北米とヨーロッパの69施設で行われた臨床試験であり、667名のICHD-3beta版の慢性片頭痛の診断基準に合致する患者を対象とした。 経口予防薬はErenumab投与2ヵ月前から、ボツリヌス毒素注射は4ヵ月前からそれぞれ禁止された。 患者は、プラセボ:Erenumab 70 mg:Erenumab 140 mgの比が3:2:2になるようにランダムに割付けられ、4週間のベースライン測定期間の後に、二重盲検で4週間毎に12週間皮下注射を受けた。 主要評価項目は二重盲検治療期間の最後の4週間 (9~12週)における片頭痛を認めた日数のベースラインからの変化とし、二次評価項目としてはベースランから片頭痛日数が50%以上低下した50%レスポンダー率、トリプタンやエルゴタミン製剤などの急性期治療薬の使用日数のベースラインからの変化、累積頭痛時間のベースラインからの変化とした (いずれも二重盲検治療期間の最後の4週間のデータを使用)。 最終的に評価の対象となった患者はプラセボ群281名、70 mg投与群188名、140 mg投与群187名であった。 ベースライン期間4週間における片頭痛を認めた日数は、プラセボ群18.2 ± 4.7日、70 mg投与群17.9 ± 4.4日、140 mg投与群17.8 ± 4.7日で群間に有意差はなかった。 片頭痛を認めた日数のベースラインからの変化は、プラセボ群で-4.2日、70 mg投与群と140 mg投与群で-6.6日であり、その差は-2.5日(95%信頼区間 -3.5~-1.4日)でプラセボに比較してErenumabの優位が示された (p < 0.0001)。50%レスポンダー率は、プラセボ群で23%日、70 mg投与群で40%、140 mg投与群で41%であった。 プラセボ群とオッズ比で比較すると、70 mg投与群で2.2 ((95%信頼区間 1.3~3.3, p = 0.0001)、140 mg投与群で2.3 ((95%信頼区間 1.6~3.5, p < 0.0001)であった。 また、急性期頭痛治療薬の使用日数に関してもErenumab投与群はプラセボ群に比較して有意に低下していた。 一方、累積頭痛時間のベースラインからの変化はErenumab投与群でプラセボ群に比較して低い傾向にはあったが、有意差は認められなかった。 有害事象発現については、プラセボ群とErenumab投与群との間に有意な差はなく、観察された有害事象も注射局所の疼痛などで重篤なものはなかった。

【結論・コメント】

本研究の結果からErenumabの慢性片頭痛に対する有効性と安全性が確認された。 慢性片頭痛に対しては、抗CGRP抗体であるTEV-48125の効果も既に確認されているため、CGRP受容体とCGRPリガンドのいずれを標的にしても抗体療法は予防効果を示すことが実証された。 忍容性が高いことから、アドヒアランスの維持が困難な慢性片頭痛に対しては非常に適した治療法と考えられる。 片頭痛病態にはCGRP以外にもpituitary adenylate cyclase-activating polypeptide (PACAP)38など他の分子も重要な役割を果たしていると想定されている。 抗体療法によるアプローチがCGRPに対して有効であったことから、今後はPACAP38を標的にした抗体療法の開発も有望である可能性がある。