皮質拡延性抑制による軟膜および硬膜マクロファージと樹状細胞の活性化

Schain AJ, et al. Activation of pial and dural macrophages and dendritic cells by CSD. Ann Neurol 2018 Feb 2. doi: 10.1002/ana.25169. [Epub ahead of print]

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景・目的】

片頭痛前兆の原因とされる皮質拡延性抑制 (cortical spreading derepssion: CSD)はニューロンとグリアの脱分極に引き続く電気活動の抑制が拡延する中枢神経における異常現象である。 一方、片頭痛の痛みは三叉神経の侵害受容器の異常活性化が関与すると考えられるが、これは血液脳関門の外の末梢における異常現象である。 CSDが三叉神経の侵害受容器を活性化機序については2つの可能性が考えられている。 1つはCSDが頭痛発生に関与していると思われる硬膜に分布する三叉神経終末の直下に達した際に侵害性刺激を加えるという可能性で、この場合はCSD発生と侵害受容器刺激のタイミングに大きな差はないと考えられる。 一方で、CSD発生から三叉神経系活性化の間には25~45分間の潜時が存在するという研究結果も存在する (J Neurosci 2010;30:8807, Ann Neurol 2011;69:855)。 本研究では、特定の細胞において蛍光蛋白質を発現する遺伝子改変マウスの頭部を二光子顕微鏡で観察することによって、CSDによる軟膜および硬膜でのマクロファージと樹状細胞の活性化過程を明らかにした。

【方法・結果】

本研究で用いられた遺伝子改変マウスは以下の通りである。ケモカイン受容体CX3CR1遺伝子のプロモーター下に蛍光タンパク質GFPを発現するマウス (CX3CR3-GFP)ではマクロファージとミクログリアを標識可能である。 また、CD11c遺伝子のプロモーター下に蛍光タンパク質YFPを発現するマウス (CD11c-YFP)では樹状細胞を標識可能である。 また、侵害性刺激の受容に関わる非選択的カチオンチャネルTRPV1のプロモーター下にtdTomatoを発現するマウス (Trpv1-cre x Ai14-tdTomato)では硬膜におけるTRPV1発現三叉神経 (侵害受容器)が標識可能である。 CSD誘導は、先端30 mmのガラス電極の先端で前頭骨下の硬膜を貫いて皮質に物理的刺激を加えることで行った。 硬膜および軟膜の観察は頭頂部の頭蓋を50~60 µmまで菲薄化させ、組織透過性の高い二光子顕微鏡を用いるという侵襲性の低い条件下で行った。 また、Texas-Red dextran (TRD)を静注することによって血管内腔の標識を行った。 通常の状態では、硬膜マクロファージは扁平で細胞体から数個の太い突起を有する形態を取っていた。 一方、ミクログリアは小さい細胞体で多数の細い突起を有するのが特徴であり、両者は明瞭に区別可能であった。 軟膜は軟膜血管の標識によって同定可能であったが、マクロファージの軟膜における存在も確認された。 マクロファージはTRDあるいはFITC dextranを貪食することが観察された。さらに運動も活発に行っていた。 一方、CSD誘導によってマクロファージの突起と偽足の退縮が引き起こされた。また、軟膜におけるマクロファージの形態はCSDが近傍に達するのに同期して円形に近づいた。 一方、硬膜マクロファージの形態はCSD発生から20分後に円形性を増していた。CSD発生の3~24分後においては、軟膜マクロファージの円形性は硬膜マクロファージよりも顕著であった。 円形性増加は軟膜マクロファージでは40分間、硬膜マクロファージでは20分間持続し、その後突起を再伸展させる様子が認められた。 一方、樹状細胞は硬膜、軟膜、くも膜下腔に認められた。 樹状細胞はマクロファージに比較して数は少なく、38.3%の細胞は活発な運動を行っており、特に軟膜とくも膜下腔において活発であった。 しかし、CSDが到達すると12分後からそのような運動性は有意に低下した。なお、マクロファージと樹状細胞は硬膜TRPV1陽性侵害受容器と一部の細胞は非常に近接して存在していた。 マクロファージとリポポリサッカライド (lipopolysaccharide: LPS)はマクロファージや樹状細胞を活性化することが知られている。 LPSを尾静脈から投与したところ、マクロファージと樹状細胞の突起退縮、円形化、運動性低下が観察された。

【結論・コメント】

CSDによって、時間的に軟膜マクロファージ、樹状細胞、硬膜マクロファージの順番で活性化が生じることが明らかとなった。 また、一部のマクロファージと樹状細胞が硬膜三叉神経侵害受容器と近接して存在していることは、これらの炎症細胞が疼痛発生に関与することを示唆している。 前兆のある片頭痛患者において、頭痛発生は前兆と同時に起こる場合と、30~40分程度遅れて起こる場合がある。 同時に起こる場合には、軟膜マクロファージ活性化が、遅れて生じる頭痛には硬膜マクロファージが関与している可能性が、本研究結果から提示されたと言える。 今後は、これらの炎症細胞の形態観察だけでなく生化学的異常を明らかにすることが重要であろう。