一酸化窒素供与体による頭痛の発生機序における三叉神経節ニューロンTRPA1の役割

Marone IM, et al. TRPA1/NOX in the soma of trigeminal ganglion neurons mediates migraine-related pain of glyceryl trinitrate in mice. Brain 2018 doi: 10.1093/brain/awy177.

慶應義塾大学神経内科
企画広報委員
柴田 護

【背景・目的】

一酸化窒素供与体であるglyceryl trinitrate (GTN)やニトログリセリンを片頭痛患者に投与すると即時的頭痛に加えて遅発性の片頭痛様頭痛発作が誘発されることはよく知られている。 この現象は三叉神経領域のアロディニア発現を指標にすることでマウスでも再現可能である。 TRP (transient receptor potential)チャネルは三叉神経節ニューロンなどの一次感覚ニューロンに発現する非選択性カチオンチャネルファミリーであるが、TRPA1は不快な寒冷刺激や活性酸素種 (ROS)や一酸化窒素 (NO)に反応することが知られている。 本研究は、動物モデルと培養細胞を用いてGTN投与後のアロディニア発現におけるTRPA1の役割を詳細に検討している。

【方法・結果】

C57BL/6マウスに1, 5, 10 mg/kgのGTNを全身性に投与 (腹腔内注射)すると、投与0~10分後に眼科周囲部皮膚に一過性の血管拡張が認められ、0.5~6時間後には同部位にvon Frey hairを用いて機械的アロディニアが生じ、かつ後者には量反応関係が見られた。GTNにアルデヒド脱水素酵素2 (ALDH2)が作用するとNOが産生されることが知られている。一過性皮膚血流上昇は、ALDH2阻害薬によって消失したが、TRPA1阻害薬は影響を与えなかった。一方、眼窩周囲部機械的アロディニア (periorbital mechanical allodynia: PMA)は一次性感覚ニューロンにおけるTRPA1遺伝子ノックアウトによって焼失した。さらに、GTN投与前にALDH2阻害薬、TRPA1阻害薬、NOスカベンジャーを全身投与しておくと、いずれの場合もPMA発現は抑制されたが、GTN投与1時間後の投与ではTRPA1阻害薬によってのみ抑制が認められた。 培養三叉神経節ニューロンを用いた実験では、GTN投与によって用量依存的に細胞内カルシウム濃度上昇が起こり、TRPA1阻害薬やTRPA1遺伝子ノックアウトによって抑制された。 薬理学的阻害では、ALDH2阻害薬とNOスカベンジャーで細胞を処置してもGTNによるカルシウム濃度上昇は拮抗されなかった。 一方、ALDH2非依存性NO供与体であるSNAPを局所投与した実験では、細胞内カルシウム濃度上昇が見られ、さらにTRPA1阻害薬とNOスカベンジャー両者によって拮抗された。 また、マウスの眼窩周囲部にGTNあるいはSNAPを局所投与した実験では、いずれの場合もPMAが生じたが、TRPA1遺伝子ノックアウトはこれを抑制した。 TRPA1阻害薬の全身および局所における前投与ではGTN誘発性PMA発現は抑制されたが、ALDH2阻害薬およびNOスカベンジャーの全身における前投与では抑制されなかった。 しかし、SNAP局所投与によるPMA発現に対しては、TRPA1阻害薬だけでなくNOスカベンジャー前投与も抑制効果を示した。 また、GTN全身投与によるPMAはROSスカベンジャーであるα-lipoic acidとPBNをGTN投与1時間後に投与することで抑制された。 GTN全身投与誘発性PMAに対して、NOスカベンジャー、ALDH2阻害薬、TRPA1阻害薬の眼窩周囲部への局所投与は拮抗作用を示さなかった一方で、いずれの薬剤も髄腔内投与では拮抗作用を発揮した。 以上をまとめると、ALDH2の作用でGTNから産生されるNOがTRPA1アゴニストとして作用すること、GTNによる局所皮膚血流上昇にはNOが関与し、PMA発現が成立するには早期においてはNOによるTRPA1の作用が関与するが、時間が経過するとNOではなくROS産生が重要な役割を果たすことが示唆された。 また、その作用点は神経終末ではなく、中枢側に存在する可能性が支持されたといえる。 さらに、三叉神経節での免疫染色を行うとTRPA1陽性ニューロンにNADPH oxidase (NOX) 1, 2, 4が共発現していた。NOXはROS産生に関与する酵素であり、GTN全身投与によるPMAはNOX1およびNOX2阻害薬によって抑制されることも示された。 一方、GTN全身投与によるPMA発現にCGRPの拮抗薬であるCGRP8-37とBIBN4096BSを遅発的に投与すると部分的な抑制効果が観察された。

【結論・コメント】

遺伝子ノックアウトだけでなく非常に多くの条件下での薬理学的実験によって、NO-TRPA1系の作用がPMAを引き起こす機序についての重要なヒントが得られたと考えられる。 TRPA1はNOだけでなくROSによっても活性化される。したがって、TRPA1刺激後にNOXによるROS産生が生じると、そのROSがTRPA1をさらに刺激することでフィードフォワード的にTRPA1活性化が持続する可能性が指摘されたといえる。 また、TRPA1刺激の下流でCGRPが何らかの役割を果たしていることは、CGRPを標的にした治療がTRPA1関連片頭痛発生メカニズムに対しても有効な手段である可能性を支持している。なお、頭痛を引き起こす木 (headache tree)の存在が知られているが、その原因物質はTRPA1を活性化するumbelluloneであることが以前Brain誌に報告されている (Nassini R, et al. Brain 2012;135:376-390)。興味のある方には一読をお勧めしたい。